お勧めの法律書百選・その2

穂積陳重の『法窓夜話』は、その続編も含めて、古典的名著というか、法律四方山話が好きな多くの人に影響を与えている。となると、趣きは違うが、末広厳太郎の『嘘の効用』も、古典的名著として浮かび上がってくる。現代でこの種の名著というと何があるだろうか?我妻栄『法律における理屈と人情』と中川善之助『民法風土記』はブログコメントで紹介していただいた。前者は「我妻先生が啓蒙活動の一環として行った講演会を文章化したものであり、一般の方にもわかりやすく民法の思想が説かれています。」と、後者は「中川先生(我妻先生や川島武宜先生、稲本洋之助先生、来栖三郎先生、青山道夫先生などもそうですが)は社会学的調査を用いて、法理論と社会実態を調和させた民法の大家ですが、その中川先生が調査の過程で感じたこと等を柔らかなタッチで語る紀行文です。
条文以前にあった慣習法としての民法の姿を捉えることもできる好著です。」とコメントされている。

外国の古典法律関係書もたくさんあるのだが、まずはイェーリングの『権利のための闘争』。コメント欄で「言うまでもない世界的名著です。権利を主張することとはなんぞや、ということをこれほど薄い本で語り尽くす法教育の啓蒙書として最高の本だろうと思います。」と紹介いただいた。次いでベッカリーアの『犯罪と刑罰』。この人の名前とロンブローゾの名前は刑法を学んだことがあれば忘れられない。「これも言うまでもない世界的名著でしょう。「法と道徳の区別」「罪刑法定主義」等、東大法学部卒の政治家すらなぜか認識していない(あえて無視してるだけでしょうが)近代法の基礎概念を強く叩きこんでくれる名著です。」

英米法学を代表するといっても過言ではない田中英夫先生だが、竹内昭夫先生と共に書かれた『法の実現における私人の役割』は、クラスアクションなどの民事訴訟上の制度を通じた法のダイナミズムを描き、法学界に幅広い影響を与えた。『英米法のことば』とともにFB友達の推薦による。
以下に挙げるのは司法制度にまつわる印象深い書籍で、今となっては歴史の一部かもしれないものも、集団的消費者被害回復制度ができようという今、ようやくその域に世の中が近づいてきたというべきものもある。ローレンス・レペタ『MEMOがとれない―最高裁に挑んだ男たち』は長らく傍聴人にメモ取りすら許さないという合理性のない規制に惰性で使っていた裁判所を、外国人の異議申立てにより激変させた歴史的事件を本人が描く。マウロ・カペレッティの『正義へのアクセス―権利実効化のための法政策と司法改革 (1981年)』は、1980年代の世界的な司法改革で裁判へのアクセスを団体訴権やリーガルエイドなどを中心として実現するというムーブメントの綱領的文書。小島武司『訴訟制度改革の理論―マクロ・ジャスティスを目ざして (1977年)』は、そのマウロ・カペレッティのムーブメントに影響を受けた日本での検討に取り組んだ論文集。
司法制度に関しては『テキストブック現代司法』も忘れられない。司法制度改革以前の問題状況を前提とするが、この第5版までの間に大きく変わってしまった。
『裁判所改革のこころ』の著者浅見判事の論文「静かな正義の克服を目指して. ─ 私の司法改革案」は、その閉塞感あふれる裁判所から出てきた息吹を感じさせられるものであった。
その他、田中成明『裁判をめぐる法と政治』は、その後の多作な田中先生の起点の一つを画する書だ。
民事手続法関連では、医療過誤訴訟を題材にした名著『アクチュアル民事の訴訟』、伊藤真先生という名義だが、元東大教授の伊藤眞先生の『民事訴訟の当事者 (弘文堂法学選書)』、同じ伊藤先生のかなり古くなった本だが『破産―破滅か更正か』がある。いずれも図書館で見るべき本かもしれない。FB友達からは竜崎喜助先生の『裁判と義理人情』が挙げられた。これもまた当時話題となったものである。
『ポーツマスの旗』は、小村寿太郎による外交交渉を描いたもの。Twitterで教えてくれた方は、「法律書ではないものの、条約締結は二当事者間のルールを決めていく交渉の舞台として最高峰ですし、交渉の辛苦とエッセンスが凝縮されているように感じます。」とされている。また『喧嘩両成敗の誕生』はFB友達のご教示による。「民事ではありませんが、いわゆる法史学の入門書としてこの本は衝撃的でした。」という。私の推す日本法制史の本は、同じ著者の『日本神判史』だ。
Twitterで教えていただいた『最終弁論』、「弁論という法廷での生きた言葉で綴られていて、法律が臨場感をもって迫ってくる1冊」と評されている。弁論や演説を集めた本は、米を中心に多く出されている。