2025/04/21

Jugement:不法行為加害者である未成年者の母親の監督責任を認めない一方、被害者の兄に民法711条による請求を認めた事例

福岡地判令和7年3月24日判決全文PDF

Temis1 事案は、15歳の少年が被害者女性を商業施設内で刺し殺したというものであり、被害者の母(原告A)と兄(原告B)が加害者本人(被告1)とその母親(被告2)に対して、不法行為に基づく損害賠償を求めたもので、根拠法条として民法709条の損害賠償請求権の相続による原告Aの取得とともに、遺族固有の慰謝料を原告ABともに請求している。また、被告2に対する請求は監督責任を怠ったことに基づく不法行為責任の追及である。

判決は、被告1に対する損害賠償を原告AとBともに認め、被告2に対する請求は棄却した。

主な論点は、兄である原告Bが民法711条に基づく慰謝料請求をできるのかと、親権者である被告2に監督責任が認められないのかどうかである。

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2025/04/17

UK最高裁によるトランスジェンダーと平等権

 UK最高裁は2025年4月16日、トランスジェンダーの人が性別認定証明書により認められた性として扱われることを2010年平等法の元で保障されるか、言い換えると同法の男性、女性、性別という概念は性別認定証明書により認められた性を含むのか、それとも生物学的な性に限るのかという問題について、生物学的な性に限るとの解釈を示して、性別認定証明書により認められた性を含むとするスコットランド政府のガイドラインを違法と判断した。

判決文PDF

Justicepolonaise  以下、事実関係と、判決文のごく簡単な要約を示す。なお、判決自身も要約をしており(265)、また裁判所としてプレスリリースにまとめた文書があるので、詳しくはそちらを参照されたい。

 問題は、スコットランド議会が制定したGender Representation on Public Boards (Scotland) Act 2018の規定上、「女性」の意味にトランスジェンダーで女性となった人(以下MtoFともいう)が含まれるかという解釈問題で、スコットランド政府は当初幅広く女性と認識される人と解釈していたが、これに今回の訴訟原告でもある女性団体(For Women Scotland Ltd)が異議を申し立てて、スコットランドの高等法院(Court of Session)のInner House(控訴審を担当)がそのような解釈の下での法律はスコットランドの立法管轄権を逸脱するとして無効とした。
 そこでスコットランド政府は、「女性」の意味がthe Equality Act 2010(2010年平等法)での「女性」と同様であり、その中にはGender Recognition Act 2004(2004年性別認定法)が設けた性別再認定証明書(GRC)を有する女性(つまり公的に認められたMtoF)も含まれるとのガイドラインを制定した。
 本件は、このガイドラインの解釈が違法であることの確認をスコットランドの女性団体が求めて提訴したものである。

 これについて、スコットランド高等法院は一審も控訴審も、訴えを棄却し、スコットランド政府の解釈が適法であると認めた。そこでUKの最高裁に上訴がなされた。

 

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2025/02/17

Jugement:新型コロナの軽症者収容のためホテル借り上げを具体的に依頼しながら契約しなかった地方自治体に契約締結上の過失責任が認められた事例

岡山地判令和7年1月28日判決全文PDF裁判例Watch

P1070165 原告は岡山のホテルであり、2020年4月に被告自治体の担当者Cによる新型コロナウイルス感染者の軽症者について収容する施設としてのホテルの借り上げ調査に際して、その提供を申し出た。5月1日から7月末までの借上げ予定で、Cと医師らによる現地確認が4月16日、被告からファックスされた借り上げの申出書に記入して原告が被告に提出したのが4月22日、そして4月27日にはCら複数の被告職員が原告ホテルを訪問し、5月1日からの借上げを希望し、月に720万円とする条件を提示、口頭で5月1日からの借り上げを希望する旨をCが原告に伝え、Cに同行した被告職員が医療関係者を伴ってホテルの各所に分かれて視察し、具体的な運用方法を協議確認した。加えて、電話の増設、本館ロビーに県の詰め所を作りそこで電話を受けること、窓を開閉できるようにすることなどを要望し、原告は同日電話増設等の工事を発注した。なお、契約書案は、原告の要請により被告から未確定版として4月28日に原告に送付された。

そして4月30日にもCが原告ホテルを訪れ、今後の日程や5月2日にマスコミ発表することなどを確認した。

 以上のような経過ののち、5月1日午前に被告が原告と契約しないことを決定し、その旨はCが原告ホテルに行って伝えた。その理由は部屋が狭いこととタバコの匂いがするということである。

 こうした事実関係を前提に、裁判所はどのように判断したか。

 

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2025/02/07

jugement:福岡小学校教諭の公務災害死について市の安全配慮義務違反が認められなかった事例

福岡地判令和7年1月14日(判決全文PDF裁判例Watch

[事案]

 福岡市立の小学校教諭Aが在職中にくも膜下出血で死亡し、以下のような事情から公務災害として認められた。

 ア 亡Aの本件小学校での時間外勤務時間数は、本件疾病発症前1週間が32時間、同発症前30日間が73時間にとどまっており、当該時間外勤務時間数のみでは亡Aが過重で長時間に及ぶ時間外勤務(発症日から起算して1か月程度にわたる週当たり平均25時間程度以上の時間外勤務の連続)に従事していたとまでは認められない。
 イ もっとも、亡Aが、①赴任初年度であるにもかかわらず、6年1組の担任に加え、学年主任及び生徒指導主任を任されたこと、②校長、教頭及び主幹から日常的に細かく業務をチェックされ、忙しいのに主幹から仕事を依頼され、校長の言動が精神的負荷となっていたこと、③責任感が強く、修学旅行の準備などの過重な業務を回避しなかった上、夏季休暇明け以降、妊娠した6年3組の女性教諭のサポートに加え、教育実習生の指導、PTA主催のバザーの準備等の行事が重なったこと、④自宅での持ち帰り作業時間について、本件疾病発症前30日間につき29時間程度あったと認められること等の負荷要因を前記アの時間外勤務時間数と総合的に評価すると、亡Aは本件小学校において通常の日常の職務に比較して特に過重な職務に従事していたものと認められる。
 ウ 基金の委嘱した医師は、亡Aには飲酒や喫煙の習慣はなく、健康診断結果を見ても本件疾病を発症させる特段のリスクは見られない旨の医学的所見を示している。

Aの配偶者である原告が、市の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償を請求したのに対して、福岡地裁は請求を棄却した。

 

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2025/01/31

Jugement:原発事故に関する東電取締役等の任務懈怠により東電に与えた損害の賠償を命じた株主代表訴訟

東京地判令和4年7月13日PDF判決全文裁判所判例Watch

Temis2 東電の取締役等4名に対して、13兆3210億円の損害賠償を東京電力に対して支払えとの主文である。

前提事実だけでも82頁、判決文全体は別紙を除いても413頁もある。

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2025/01/19

arret: 第二次大戦戦没者合祀絶止等請求事件最高裁判決

最判令和7年1月17日〔判決全文PDF裁判例Watch

Temis1petite_2  韓国籍の上告人らの父親が旧日本軍の一員として亡くなり、戦後に国の情報提供によって靖国神社が合祀したという事例において、上告人らは合祀のために行われた国の情報提供行為を不法行為として、国家賠償を求めたという事件である。

 原審は、情報提供行為が昭和34年、本件訴え提起が平成25年ということで、除斥期間が経過していることを理由に請求棄却の結論をとった。

 これに対して上告受理が申し立てられ、除斥期間に関する判断への不服が受理されたが、結論としては除斥期間を主張することが信義則違反ないし権利濫用となる事情はないとして、上告を棄却したという物である。

 少数意見として、尾島明裁判官が補足意見を、三浦守裁判官が反対意見を付けている。

 興味深いのは、三浦裁判官の反対意見で述べられている合祀の際の国の協力措置である。

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2025/01/16

arret:海外の臓器あっせん業が臓器移植法違反に問われた事例

東京高判令和6年12月6日PDF判決全文裁判例watch

NHKニュース

無許可で臓器提供あっせんした罪 NPO法人理事に2審も実刑判決

Temis2

高裁は、基本的に原判決の判断を肯定し、臓器移植法の「目的や基本的理念が、移植医療の適正な実施、臓器提供の任意性の確保、移植術を受ける機会の公平性の確保等にあり(同法1条、2条)、国外における移植術に関しても、許可を受けない者が業として臓器のあっせんを行った場合には、原判決が指摘するとおり、前記のような臓器移植法の目的や基本的理念に反する種々の弊害の生じるおそれがあることに鑑みれば、あっせん行為の一部又は全部が国内で行われる限り、それが国外における移植術に関するものであっても、臓器移植法12条1項の定める厚生労働大臣の許可が必要であると解するのが相当である。」と判示した。

また、「本件各行為は、移植実施施設と移植希望者との間の仲介行為に過ぎないから、同条項の「あっせん」には該当しない、と主張する」所論に対しては、その場合でも臓器移植法の基本的理念等に反する弊害の生じることが想定されるので、狭く解する必然性はないとした。

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2025/01/09

jugement:ビットトレント利用者の発信者情報開示命令

Temis1 東京地判令和6年12月16日(判決全文PDF

本件は、ビットトレント利用者の発信者情報開示命令に対する異議審で、開示命令認可の判決が下されたものである。

ビットトレントはいわゆるP2Pファイル共有システムであり、動画共有に利用されている。既に二、三年前から大量の発信者情報開示請求事件が係属して、豊富な裁判例を生み出してきた。本件は発信者情報開示命令の中でその一事例を積み重ねるものである。

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2025/01/08

jugement:留置担当官が被疑者ノートを15分間持ち去った行為の違法性を認めた事例

札幌地判令和6年12月3日PDF判決全文裁判所判例Watch

Temis2 事案は、子供の監禁容疑で逮捕された母親が、被疑者弁護人の勧めに従って黙秘に転じた後にも取り調べが継続していた状態で、弁護人が差し入れた被疑者ノートについて留置担当官による持ち物検査で点検され、一部が破損して修繕が必要だからという理由で被疑者ノートを持ち去り、被疑者の見えないところに15分間置いていたというもので、原告は黙秘後の取調べの違法、接見内容を聞き出そうとした接見交通権侵害、被疑者ノートを閲覧した接見交通権侵害、そして15分間持ち去った点での接見交通権侵害を主張して国家賠償を求めた。

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2024/03/12

Arret:共通義務確認訴訟では過失相殺が問題になる事案でも支配性に欠けるものではないとされた事例

最判令和6年3月12日PDF判決全文

消費者裁判手続特例法2条4号所定の共通義務確認の訴えについて同法3条4項にいう「簡易確定手続において対象債権の存否及び内容を適切かつ迅速に判断することが困難であると認めるとき」に該当するとした原審の判断に違法があるとされた事例

事案は、仮想通貨で儲かるという触れ込みの情報商材をネットで販売していたワンメッセージという会社と、その代表者が、(1)仮想通貨バイブルというDVDと(2)VIPクラスという商品を付加したもの、そして(3)パルテノンコースを数千人もの人々に売りつけたというもので、それらは「虚偽又は実際とは著しくかけ離れた誇大な効果を強調した説明」で売却されたのであるから不法行為に該当すると主張し、特定適格消費者団体の消費者機構日本(COJ)が多数の購入者たる消費者に共通する損害賠償義務の存在を確認するよう求める訴えを提起した。

これに対して第一審は、購入した消費者の中には仮想通貨取引に経験のあるものなど投資経験が様々であるので、本件のような虚偽または誇大な効果を強調した説明を信じて金銭を支払うということについて過失がありうるし、その過失の程度は被害者間で様々であるから、簡易確定手続で一律に決めることはできないし、またそもそも説明によって誤信したという因果関係についても様々であって一律に判断できない以上、消費者裁判手続特例法3条4項の要件を満たさないのであり、訴えは不適法であるとした。この判断は控訴審でも支持され、控訴棄却となった。

これに対してCOJが上告受理申立てを行い、受理されて先日弁論が開かれ、本日3/12に判決が言い渡された。

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