2023/03/24

arret:孤立出産した外国人技能実習生の死体遺棄を無罪とした最高裁判決

最判令和5年3月24日判決全文PDF

 技能実習生の被告人女性が、双子の赤ちゃんを自室で出産し、まもなく亡くなった双子をタオルでくるんでダンボール箱に入れ、棚の上に保管していたところ、その翌日に検査を受けて出産したことを話したため知られることとなったという事案において、第一審は不作為による死体遺棄、原審は外から死体があるとわからない状態にしたことで隠匿したものと評価し、死体遺棄の成立を認めた。

 これに対する上告審が、逆転無罪判決を下したのが本判決である。

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2022/10/28

jugement:コンサート出入り禁止措置の無効確認訴訟

コンサートのいわゆる出禁を言い渡されたのに対して、その無効確認の訴えを提起したという事例があった。

東京地判令和3年10月12日WLJ(令和元年(ワ)33942号)

当然ながら、訴えの利益が問題となる。確認訴訟だけに、原告と被告との間に法的な紛争があり、原告が確認対象とする訴訟物について既判力をもって判断することが原告被告間の紛争の抜本的な解決に有効適切であることと言えるかどうかが問題である。

コンサートの出禁というのが、この事例では、被告がマネージするグループの行うもので、反復継続して行われ、そのグループのファンが比較的小規模な会場でリピーター的に入場しているものであるから、そのファンであれば今後来てくれるなというのはかなりのダメージであろう。

Twitterの中毒患者がアカウント凍結されるようなものかもしれない。

それで、その措置の無効確認訴訟を提起したというのだが、果たして確認の利益は認められるのか? 裁判所は取り上げてくれるのか?

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2022/07/23

jugement:不同意性交によるPTSD被害について国賠が認められた事例

長崎地判令和4年5月30日PDF判決原本

長崎市役所の原爆被爆対策部長が、平成19年8月における民主党政権の衆議院議長の長崎原爆忌出席の取材をしようとした女性記者を電話で呼出してホテルで同意なき性交に及び、PTSDにさせたということで、国家賠償が認められた事例。

 

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2022/06/24

arrêt:犯罪歴のツイートを削除せよとの請求がツイッター社に対して認められた事例

最判令和4年6月24日判決全文PDF

旅館の女子風呂脱衣場に立ち入ったとして建造物侵入により逮捕され、罰金を支払った上告人は、その逮捕事実の報道記事を引用したツイートの削除を求めて、ツイッター社に対して訴えを提起した。

第一審は請求を認容したが、控訴審=原審は、グーグルに対する検索結果のプライバシー侵害を理由とする削除事件で最高裁が示した「明らか」基準といわれる準則に則って、プライバシーの利益と削除をしない利益の考量でプライバシーの利益が優越することが明らかとは言えないとして、請求を棄却した。

最高裁は、以下のように判断した(改行、引用裁判例省略などは引用者)。

個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきであり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解される。

そして、ツイッターが、その利用者に対し、情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供するなどしていることを踏まえると、上告人が、本件各ツイートにより上告人のプライバシーが侵害されたとして、ツイッターを運営して本件各ツイート を一般の閲覧に供し続ける被上告人に対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによ って本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイ ートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めること ができるものと解するのが相当である。

原審は、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、そのように解することはできない。

 

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arrêt:民訴教材:死者間の親子関係確認の利益が相続関係から認められた事例

最判令和4年6月24日判決全文PDF

上告人(原告)は、戸籍上の叔父と自己の祖父母との親子関係不存在確認を求め、検察官を被告として訴えを提起した。既に叔父も祖父母も故人であり、原審は訴えの利益がないとして却下した。

さて最高裁は?

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2022/06/02

jugement:アマゾンに出品されたバッテリーによる火災の責任をアマゾンが負わないとされた事例

東京地判令和4年4月15日PDF判決全文

事案は、アマゾン上でオーキーという中国法人が販売していたバッテリーを原告が購入したところ、発火して住宅が全焼したため、オーキーとは和解したが、その損害賠償をアマゾンに対しても求めたというもので、結論は否定されたものである。

かねてから、取引デジタルプラットフォームにまつわる民事責任の所在が問題となっていて、その一つの典型例として注目されていた事件である。

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2022/06/01

arret:精神病院が拉致監禁に加担しているとの報道を見てしたツイートが名誉毀損とされた事例

東京地判令和3年10月21日<https://www.bengo4.com/c_23/n_13728/>

東京高判令和4年5月31日<https://www.bengo4.com/c_23/n_14548/>

 

精神科医で筑波大教授の斎藤環さんによるツイッターの一連の投稿が名誉毀損にあたるとして、東京都内の精神科病院が、斎藤さんに300万円の損害賠償などを求めていた裁判で、東京地裁は10月29日、斎藤さんに20万円の支払いを命じる判決を下した。

原告の精神科病院をめぐっては、ひきこもり状態にある人から「強制入院させられた」との訴えがあり、斎藤さんは同病院を批判するツイートを投稿していた。

この一審判決に対して双方が控訴して出された控訴審判決は、

「ケツモチ」が含まれる投稿(2020年6月15日の2つの投稿)については、〈病院が拉致監禁行為に協力していることにより暴力団やヤクザと同程度に悪性が強い組織であることをいうものであって、犯罪行為に加担する組織であることを表現を変えて述べている〉と判断した。

また、その他の投稿(2019年11月〜同12月の5つの投稿)についても一体として判断し、〈刑事告訴されたことそのものではなく、告訴事実である拉致監禁行為に協力したことを断定的に述べたもの〉としている。

かくして、1審の20万円の賠償命令を100万円に増額した。

 

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2022/04/22

外国で結婚した日本人夫婦の婚姻届提出とその後の処理

映画監督の想田和弘さんと柏木規与子が挑んだ夫婦別姓訴訟判決(東京地判令和3年4月21日PDF判決全文)は控訴されずに確定したが、その後、婚姻届を再提出するというニュースが現れた。

別姓婚 日本も有効?婚姻届再提出 瀬戸内の夫妻 戸籍に記載求め近く

記事によれば、「東京地裁が昨年4月、判決で婚姻関係を認めた一方、戸籍への記載は具体的な判断をしないまま請求を退けた」ということから、東京で婚姻届を提出し、役所が受け付けないであろうから、改めて家裁に不服申立ての請求をする予定だという。以下、代理人弁護士の弁。

「地裁が婚姻関係を認めている以上、役所が応じなくても、家裁が受理を命じる可能性は十分にある」と予想。「そうなれば、裁判所で婚姻関係が認められながら戸籍に記載できていないという不合理な状態の解消につながる」

なるほど頑張って欲しいところだが、この記事にはかなりミスリードな部分があるので、上記の判決文を読んでみないとよく分からなかった。

 

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2022/04/15

jugement:仲裁合意の効力が仲裁付託条項のある契約当事者以外の者にも及ぶとされた事例

札幌地判令和4年2月8日判決全文PDF

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建設工事紛争審査会への仲裁付託の合意が入っている建築請負契約において、直接の契約当事者である被告B社と、B社とはグループ企業の間柄で先に原告との契約交渉を行い、グループ内の業務分担の結果として契約当事者とはならなかった被告C社、そしてC社の下で契約交渉を担い、B社による契約の締結と履行に際してもB社に転籍して担当者となっていたAに対して原告が請負契約不履行を理由とする損害賠償を求める訴えを提起した。

被告らが本案前の抗弁として仲裁合意の存在を挙げたが、原告は仲裁合意が錯誤または通謀虚偽表示で無効であること、有効だとしても契約したB社以外のC社とAとには及ばないと主張して争った。

なお、本訴とは別に被告側から原告に対する仲裁裁定の申立てがなされており、仲裁廷の方でもその管轄が争われているが、裁判所の判断を待つということで仲裁手続は中止されている。

裁判所は、仲裁合意の有効性は認めた上で、それがBのみならずC社とAにも及ぶかどうかについては以下のように判示した。

 

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2022/03/27

arret:夫婦別姓選択制のない民法・戸籍法は違憲だとする渡邉裁判官の意見

最決令和4年3月22日決定全文PDF

Justicepolonaise 事案は、都内の3組の事実婚の夫婦と広島市内に住む女性とが、憲法に反して夫婦別姓を認めない民法と戸籍法の規定によって結婚ができず、不利益を受けているとして、立法不作為の違法を理由に国に賠償を求めたというもの。

原審の広島高等裁判所と東京高等裁判所は「夫婦がどちらの姓を名乗るかは協議による自由な選択に委ねられていて、規定が結婚を不当に制約するとは言えない」などとして、いずれも第1審に続いて憲法には違反しないと判断し、請求を棄却した。これに対する上告で、最高裁は決定により上告を棄却したが、渡邉恵理子裁判官が詳細な意見をつけ、夫婦別姓を認めない民法・戸籍法の違憲を論じ、この意見に宇賀克也裁判官も同調している。ただし、宇賀裁判官の理由は渡邉裁判官にではなく自分が以前に書いた少数意見に同じというものだが。

 

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