Jugement:不法行為加害者である未成年者の母親の監督責任を認めない一方、被害者の兄に民法711条による請求を認めた事例
事案は、15歳の少年が被害者女性を商業施設内で刺し殺したというものであり、被害者の母(原告A)と兄(原告B)が加害者本人(被告1)とその母親(被告2)に対して、不法行為に基づく損害賠償を求めたもので、根拠法条として民法709条の損害賠償請求権の相続による原告Aの取得とともに、遺族固有の慰謝料を原告ABともに請求している。また、被告2に対する請求は監督責任を怠ったことに基づく不法行為責任の追及である。
判決は、被告1に対する損害賠償を原告AとBともに認め、被告2に対する請求は棄却した。
主な論点は、兄である原告Bが民法711条に基づく慰謝料請求をできるのかと、親権者である被告2に監督責任が認められないのかどうかである。
裁判所は、被告2の監督義務について、被告1の状況が被告2の不適切な養育状況に起因して暴力行動、破壊行動及び性的問題行動を引き起こしたと認めたが、被告らが同居していたのは4年半前までで、その後は少年院を含む各種施設が被告1を収容して治療や矯正教育をしており、同居期間中の不適切な養育が直接本件不法行為に結びついたとは言えないし、施設収容期間中も面会に行かないとか退所後の引き受け環境を整えたりしないという行動も本件不法行為発生に直接結びついたとは言えないとする。また被告1の仮退院時に被告2が引き受けを拒否し、更生保護施設に収容されたが、その点も本件不法行為発生に結びつくものではないという。
従って被告2には本件不法行為に結びつく監督義務違反はなかった。
次に兄の民法711条に関する類推適用については、内縁配偶者に類推適用を認めた最判昭和49年12月17日 民集28巻10号2040頁を引用し、以下のような事情から類推適用を認めた。
兄である原告Bは、 本件事件当時には被害女性と同居していなかったものの、被害女性が生まれてから平成30年3月までの約19年間は被害女性と同居していたこと、被害女性が4歳のときに両親が離婚して以降母子家庭であり、母である原告Aが障害を有する中、 原告Bは家族の中で唯一の男性として家族を支えており、被害女性からも頼りにされていたこと、幼いころから被害女性と仲が良く、被害女性とその母である原告Aが対立した際、母をいさめ、被害女性を諭すなど、父親代わりの役割を果たすこともあったなど、被害女性とのきょうだいとしての関係が特に緊密であったこと及び、 残忍な犯行によって唯一の妹を失ったことにより甚大な精神的苦痛を受けたことが認められる。
以下、感想であるが、兄に民法711条の類推適用をしたことについてはあまり異論がないものと思われるが、母親に監督責任を認めなかった判断ついては賛否両論がありうるところであろう。
特に、一般的に非行少年の親だから育て方が悪いというよりも、具体的に粗暴な行動をもたらすような育て方だったと認定されている模様であり、さらに施設収容時も親としての責任を取ろうとはしないで任せっきりとなっていたようなので、その間の養育に責任を持つのが施設側だからと言って親が無責任で良いということにはならないと思うのだ。ただし、本件不法行為との因果関係という点でいうと、親が引き取りを拒否して傷ついたために本件不法行為に及んだといえるかどうかは、よくわからない。
結論の当否は、主張立証の詳細がわからない以上なんとも言い難いし、また責任を認めたところで被告2に支払能力があるのかと言うと、その点も疑わしいのではあるが、ともあれ感想としてはスッキリしない結末である。
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