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2025/02/17

Jugement:新型コロナの軽症者収容のためホテル借り上げを具体的に依頼しながら契約しなかった地方自治体に契約締結上の過失責任が認められた事例

岡山地判令和7年1月28日判決全文PDF裁判例Watch

P1070165 原告は岡山のホテルであり、2020年4月に被告自治体の担当者Cによる新型コロナウイルス感染者の軽症者について収容する施設としてのホテルの借り上げ調査に際して、その提供を申し出た。5月1日から7月末までの借上げ予定で、Cと医師らによる現地確認が4月16日、被告からファックスされた借り上げの申出書に記入して原告が被告に提出したのが4月22日、そして4月27日にはCら複数の被告職員が原告ホテルを訪問し、5月1日からの借上げを希望し、月に720万円とする条件を提示、口頭で5月1日からの借り上げを希望する旨をCが原告に伝え、Cに同行した被告職員が医療関係者を伴ってホテルの各所に分かれて視察し、具体的な運用方法を協議確認した。加えて、電話の増設、本館ロビーに県の詰め所を作りそこで電話を受けること、窓を開閉できるようにすることなどを要望し、原告は同日電話増設等の工事を発注した。なお、契約書案は、原告の要請により被告から未確定版として4月28日に原告に送付された。

そして4月30日にもCが原告ホテルを訪れ、今後の日程や5月2日にマスコミ発表することなどを確認した。

 以上のような経過ののち、5月1日午前に被告が原告と契約しないことを決定し、その旨はCが原告ホテルに行って伝えた。その理由は部屋が狭いこととタバコの匂いがするということである。

 こうした事実関係を前提に、裁判所はどのように判断したか。

 

 原告と被告との間の本件賃貸借契約締結に向けての交渉は相当に成熟していたものであり、被告の庁内での了解を得れば、おおむね本件賃貸借契約書案のとおりの内容で本件賃貸借契約の締結に至る段階にあったということができ、原告においては、本件賃貸借契約が締結されることは確実であると合理的な期待を抱いていたものと認められる。また、前記のとおり、原告は、被告の依頼を受けて、契約締結前ではあったが契約締結後に必要となる工事等を先行して発注したものであり、被告は、原告の信頼を惹起させる対応を行ったものといわなければならない。

 そうすると、被告は、正当な理由のない限り、本件賃貸借契約締結に向けての原告の合理的な期待に反した行動をしてはならないとの信義則上の義務を負っていたものと認めるのが相当である。(中略)

 原告ホテルの部屋が狭小であり、たばこ臭があることが本件賃貸借契約締結を見送った理由とされるが(中略)、これらの事情等は遅くとも4月27日に原告ホテル内を確認した際までには判明していたものと考えられるのであり、これらをもって正当な理由があるということもできない。そうすると、被告が本件賃貸借契約を締結することを見送る方針としてこれを原告に伝えたことは、本件賃貸借契約締結に向けての原告の合理的な期待に反した行動をしてはならないとの信義則上の義務に違反するものといわなければならない。(中略)

 被告は、本件賃貸借契約締結に向けての原告の合理的な期待に反した行動をしてはならないとの信義則上の義務に違反したものであり、契約締結上の過失があると認められる。

 

 なお、損害に関して判決は逸失利益として直接予約の取り消し分を認め、また電話工事費などの損害も認め、請求額2958万円余りのところ、218万円余りの賠償を命じた。

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