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2025/01/19

arret: 第二次大戦戦没者合祀絶止等請求事件最高裁判決

最判令和7年1月17日〔判決全文PDF裁判例Watch

Temis1petite_2  韓国籍の上告人らの父親が旧日本軍の一員として亡くなり、戦後に国の情報提供によって靖国神社が合祀したという事例において、上告人らは合祀のために行われた国の情報提供行為を不法行為として、国家賠償を求めたという事件である。

 原審は、情報提供行為が昭和34年、本件訴え提起が平成25年ということで、除斥期間が経過していることを理由に請求棄却の結論をとった。

 これに対して上告受理が申し立てられ、除斥期間に関する判断への不服が受理されたが、結論としては除斥期間を主張することが信義則違反ないし権利濫用となる事情はないとして、上告を棄却したという物である。

 少数意見として、尾島明裁判官が補足意見を、三浦守裁判官が反対意見を付けている。

 興味深いのは、三浦裁判官の反対意見で述べられている合祀の際の国の協力措置である。

 終戦後、GHQが禁止している中でも国は靖国神社が合祀をするのに必要な名簿提供を行なっていたが、主権回復後は以下のような手順で情報提供等を行なっている。

靖國神社は既合祀者名簿を各都道府県に送付し、各都道府県は合祀基準に該当する戦没者につき祭神名票を作成して厚生省引揚援護局に送付し、同局は祭神名票を靖國神社に送付し、靖國神社はこれにより祭神簿及び霊璽簿を作成するとともに、合祀通知状を作成して各都道府県に送付し、各都道府県はこれを各遺族に送付することを確認した。

厚生省引揚援護局長は、昭和31年4月、各都道府県に対し、「靖国神社合祀事務に対する協力について」(同月19日援発第3025号厚生省引揚援護局長通知。以下「昭和31年局長通知」という。)を発し、上記事務の流れに沿う「靖国神社合祀事務協力要綱」を示すなどして、靖國神社の合祀事務への協力を求めるとともに、当該事務処理の経費は国費負担とする旨等を通知した。被上告人と靖國神社は、昭和31年1月から昭和45年6月までの間、上記打合会を含め合計21回にわたり、靖國神社内において打合会を行ったが、その際、被上告人から靖國神社に対し、今後の合祀基準や合祀の対象者に関する提案や意見等を述べるなど、合祀基準等についても協議を行った。その間、厚生省援護局から各都道府県に対し、靖國神社の合祀事務に対する協力に関する複数の通知が発せられた。

被上告人は、昭和31年局長通知等に基づき、都道府県の協力を得て、靖國神社に対し、第二次世界大戦で戦没した軍人等の氏名等の情報を提供した(以下、この提供行為全体を「戦没者情報提供行為」という。)。上記情報に基づき、靖國神社において、多数の戦没者の合祀が行われたが、昭和32年から昭和47年までの間だけで被合祀者数の合計は100万人を超える。このような情報の提供は、昭和61年頃までされていた。

以下は私見である。

このプロセスを見るならば、国は宗教法人たる靖国神社の宗教行事であるところの合祀に積極的に関与し、無償で事務手続の協力や情報提供を行なっており、それ自体、政教分離原則にも抵触し、また信教の自由に対する侵害となりうる行為と評価することも無理ではない。

この問題は、有名な自衛官護国神社合祀訴訟でも問題となり、下級審は自衛隊地連と隊友会とが共同で行なった行為として憲法違反を認めたが、最高裁は地連職員の行為を事務的な協力に過ぎないと切り離して宗教活動ではないとした。これに対して今回の訴訟は、厚生省が靖国神社と協力し、意見をいい、方針を決定して行なった強力であり、間に隊友会のような私的団体も介在していないのであって、より違憲性が強い行為と思われる。

ただし、除斥期間の壁はいかにも大きい。これを突破するような、国の側の権利濫用・信義則違反を基礎付けるような状況があったとは認め難く、三浦裁判官が述べるように情報提供行為によって損なわれた精神的損害は現在も継続しているということになると、少なくとも精神的損害の賠償に時効も除斥期間もなくなるということになりかねない。もっとも、原告らが合祀の事実をいつ知ったのか、その時期について国側が責任を負うべき事情があるかということによっては、除斥期間の起算点も考え直す余地はあるのかもしれないし、それは長期の時効となればなおのことである。その意味では、除斥期間の経過に関する審理も十分ではないという三浦裁判官の反対意見に理があると考えられる。

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