jugement:留置担当官が被疑者ノートを15分間持ち去った行為の違法性を認めた事例
札幌地判令和6年12月3日(PDF判決全文)裁判所判例Watch
事案は、子供の監禁容疑で逮捕された母親が、被疑者弁護人の勧めに従って黙秘に転じた後にも取り調べが継続していた状態で、弁護人が差し入れた被疑者ノートについて留置担当官による持ち物検査で点検され、一部が破損して修繕が必要だからという理由で被疑者ノートを持ち去り、被疑者の見えないところに15分間置いていたというもので、原告は黙秘後の取調べの違法、接見内容を聞き出そうとした接見交通権侵害、被疑者ノートを閲覧した接見交通権侵害、そして15分間持ち去った点での接見交通権侵害を主張して国家賠償を求めた。
裁判所は、取り調べの継続や被疑者ノートの点検について接見交通権侵害等を認めなかったが、15分間持ち去った行為については、以下のように述べて接見交通権侵害を認めた。
まず、接見交通権と被疑者ノートの重要性・要保護性について
被疑者と弁護人の接見交通権は、両者にとって最も重要な権利であるところ、逮捕又は勾留された被疑者が弁護人との接見に備えて取調べや接見の内容等を記載した被疑者ノートを作成することは、接見行為そのものではないものの、面会時における両者の意思疎通を補完し、又はこれと一体となって弁護人の援助の内容となるものである。
そうすると、刑事収容施設法212条1項に基づき留置担当官が被留置者の所持品を検査する場合であっても、その対象が被疑者ノートである場合には、記載内容の検査が無制限に許容されるとすることは相当でなく、少なくともこれを精査する行為は、留置施設の規律及び秩序を維持するための高度の必要性が認められない限り許容されないと解される。また、被疑者ノートを持ち去る行為は、修繕等の理由がある場合であっても一定の制限があるものと解すべきであり、その当否は、留置施設の規律及び秩序を維持するための必要性の程度と、持ち去りの態様・程度等とを比較衡量して決することが相当である。
また、被疑者が黙秘している場合において、当該被疑者が被疑者ノートに記録した弁護人との接見の内容は、黙秘に係る事件の内容に及ぶことが常であるから、捜査官が当該記載内容を閲覧することは、当該被疑者の黙秘権を侵害するといえる。
一方、留置担当官は被留置者に係る犯罪の捜査に従事するものではない以上(刑事収容施設法16条3項)、留置担当官が黙秘中の被留置者(被疑者)の被疑者ノートの記載内容を閲覧する行為は当該被留置者(被疑者)の黙秘権を直接侵害するものではないものの、当該被留置者(被疑者)においてその記載内容が捜査官に伝播するのではないかとの不安感は看過し得ないものであって、その限度で当該被留置者(被疑者)の黙秘権を侵害するものと解するのが相当である。
この一般論の下で、本件では持ち去る必要性もなく、内容を閲覧したと認める証拠はないものの15分間持ち去られれば被疑者が留置担当官や捜査官が閲覧しているのではと危惧することは当然で、その不利益は看過できないとした。その結果、「本件持ち去りは、留置施設の管理の必要から許容される限度を超え、原告らの接見交通権を違法に侵害したものと認められる」と結論づけた。
そして、この持ち去り行為は原告の「黙秘を含む供述意思形成に対する萎縮効果を否定することはできず、本件持ち去りは、その意味において原告Aの黙秘権を侵害したものと認められる。」とした。
かくして、国家賠償法1条1項の適用上違法と評価して、損害賠償を認めたのである。
被疑者ノートを持ち去った行為について、接見交通権侵害・黙秘権侵害としたわけだが、その実質は、捜査官が被疑者ノートを閲覧することが違法であり、持ち去った行為は閲覧されたのではないかとの危惧が生じるが故に、接見交通権・黙秘権の侵害となるとしたもので、要は被疑者ノートの秘密性を保護すべきことの意味が正当に評価されたものと位置付けることができよう。
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