arret: 婚姻費用分担請求に関する最高裁の判断例
事案は、婚姻前に二股かけていた女性が、その一方の結婚し、その二ヶ月後に出産した子供の親は結婚しなかった方の男性だったという事例で、しかしそのことは夫には知られずに2人の子として出生届を出した。その後、5年後の令和元年10月に、妻の方から離婚を切り出して別居し、子は妻が監護しているところ、夫が父子関係を疑ってDNA鑑定を行ったので、上記の事実が明るみに出た。
そこで、夫から妻と子に父子関係不存在確認と離婚を求める調停を提起し、これは不調に終わった。その後、訴訟に至っている。他方妻から夫に対して婚姻費用の分担請求調停が出され、これも不調に終わって審判に移行した。
原々審は父子関係が不存在だという認定のもとで婚姻費用分担請求は信義則に反するとして却下。
原審は父子関係の存否が訴訟で決せられるまでは、扶養義務を免れないとして、婚姻費用月額4万円の支払いを命じた。
妻側が許可抗告に及び、最高裁の判断が示されることになった。なお、原審決定後に、夫の子に対する父子関係不存在確認請求は認容され確定している。
最高裁は、原審判断を支持できないとして破棄し、婚姻費用分担請求を却下した原々審に対する抗告を棄却する自判をした。
争点は、親子関係不存在確認請求が先決関係となる他の事件において、親子関係の存否を判断できるのか、それとも別にその点を訴訟物とする訴訟で決着がつくまで、親子関係が存在する前提で判断すべきなのかという点で、原審は後者の立場を取った。
しかし、最高裁があげる先例では、「訴訟において、財産上の紛争に関する先決問題として、上記父子関係の存否を確定することを要する場合、裁判所がこれを審理判断することは妨げられない」(最判昭和50年9月30日集民116号115頁)と判断されており、このことは婚姻費用分担で子の看護費用を含めるかどうかが問題となるケースでも同様だという。最高裁は、その参考判例として遺産分割審判における前提問題としての相続権や相続財産の範囲の判断を決定手続で判断できるとした事例(最大決昭和41年3月2日民集20巻3号360頁)を挙げている。
かくして、夫の子ではない子供の養育に要する費用まで含めた生活費を夫に請求することはできないとした家裁の判断が是認された。
なお、この事例は婚姻後200日経過後に出生して嫡出推定が及ぶ子が実は別の男性の子だったというケースには射程が及ばない。
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