Book:御成敗式目
御成敗式目の名前自体を知らない者、というか学校で習ったことがない人は少ないだろう。覚えているかどうかはともかく。しかしその中身については、本書でも再三述べられているが、あまり知られていない。
この本では、その成り立ちから武士による法令ということの位置づけ、従来の法との関係が説明されており、特に興味深いのは、北条泰時が朝廷にこの御成敗式目を送ったときに、朝廷側からの「本説ないし本文(よって立つ典拠)は何か」という問いに対して、特に典拠はなく道理を記したものに過ぎないと答えているところである。朝廷側が想定する典拠とは、要するに律令のことで、日本でも、また中国でも、古典としての典拠を注釈していくことが学問であって、典拠自体を書き換えることはしないという態度が通常であったという。律令も養老律令が不磨の大典化していたところ、御成敗式目はそれと直接関係なく作ったというのであるから、いわば革命であり、朝廷側の反発は当然であったかもしれない。
そして、その内容が道理に基づくものであり、さらにこれまでの裁判例を踏襲するものという姿勢も現れているので、これはつまりコモンローのりステイトメントのような意識で作られたわけである。
立法者である北条泰時は御家人を法の名宛人として発布したが、その御家人たちがこのルールを御家人以外の相手にも持ち出すことで、適用範囲が広がっていったというところも、現代に通じる法の妥当性獲得過程を見るようで興味深い。
なお、本書の末尾には御成敗式目51か条が書き下し文で掲載されている。それを見ると、訴訟法的には一事不再理と再審可能性を示した31条がとても味わい深いし、また御成敗式目の適用はその成立後の事件に限るとされ不遡及の原則が運用として取られたことも、近代にも通じる法の精神を見て取ることができて面白い。
| 固定リンク
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- Book:腐敗する「法の番人」(2024.06.30)
- comic:ヒストリエ12(2024.06.29)
- Comic:まんが アフリカ少年が日本で育った結果 ファミリー編(2024.06.28)
- Book:フランス人ママ記者、東京で子育てする(2024.06.27)
- Book:赤と青のガウン オックスフォード留学記(2024.06.23)
コメント