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2023/02/15

ChatGPTで法律相談by弁護士ドットコム

Yahoo!ニュース経由の朝日新聞によると、弁護士ドットコムがChatGPTを使って法律相談を実施するそうだ。

弁護士ドットコムでは、これまで本物の弁護士を使って、一般からの法律相談に回答をさせるというフォーラムを運営してきて、その質問と回答例が100万件以上蓄積されている。これを人工知能に学ばせることにより、ChatGPTが日本の法律問題を質問すると過去の弁護士回答に準拠した回答が出てくるというわけだ。

ただし、日本の弁護士法は弁護士・弁護士法人以外の法律相談など法律事務を有償で行うことを禁止しているので、当面無料とのこと。また法律は変化するので、古い法律を前提とした回答の通用力にも疑問は残る。例えば100万件の大多数は、瑕疵担保とか時効中断とか法定利率が5%とか言っているに違いないし、錯誤は無効とかも言っているに違いない。そういった改正前の回答を自動的にバージョンアップする技術も構築してくれると、これはこれで凄いことになりそうである。

さて、こうした法律相談をAIが回答することを実際に行うということがこんなに早く現実のものとなるとは正直思っておらず、少々戸惑いを感じないではない。

従来、AIによるPredictive Justiceに対しては、様々な懸念が提起されてきた。

Photo_20200110135801 特に重要なのは、その判断の元となる現実社会の法的判断がバイアスに満ちているとすると、AI判断もまたそのバイアスから逃れられないという点にある。人事評価をAIが過去の人事評価と社員の成績や出世などを基礎データとして行うという場合、一般的に男性を優位に扱うものとなる。なぜなら、これまで業績を上げて幹部となったのは男性が大半であり、他方で女性は出産等で途中でやめたり昇進機会やそのための研修・訓練の機会も乏しいため出世しにくかったりするので、その結果は男性の方が業績を出して出世するという予想のもとでの判定が下されるというのである。

弁護士ドットコムが弁護士による回答を始めた時点はいつか、私は正確なところは知らないが、創業は2005年、登録弁護士向け有料サービスを開始し、黒字化したのが2014年ということである。それ以降、法と正義の原理を学んだ弁護士さんはこんな単純な男女不均等を是とするような回答はしなかっただろうとは思う。しかし、例えば #MeToo 運動が世界的に著名となったのは2017年で、弁護士ドットコムの有料サービス開始後である。さらにセクハラ・パワハラが許されない行為として認識され、性犯罪が重罰化されるようになってきたのは、最近のことであり、法律家の意識も徐々に変わってきた。DVだって、保護命令の対象になるようなDVは許されないと誰でもいってきただろうが、10年ほど前だと夫婦喧嘩は犬も食わないとか、法は家庭に入らずとか、しつけのために体罰は許される場合もあるとか、まだまだいわれていたのではないか。少なくともモラハラが許されるべきでないDVという認識は、現在に至ってもまだ一般的ではないように思う。さらに、LGBT+に至っては、現在でもまだ差別意識は残存し、建前として差別はいけないと認めつつもなお、「同性婚は社会を変えてしまうから慎重に」と首相が国会で堂々と答弁してしまうくらいである。

その他、上記記事にもあるが、過去の回答が誤っている場合、その後に改正とか判例変更とかで結果的に間違いになっている場合、それを元に新たな質問にAIが間違った回答をしてしまった場合は、それは誰の責任となるのか? おそらく免責規定を置いておくのだろうが、日本の消費者契約法8条は、事業者の全面的な免責をもたらす条項を無効としている。軽過失の場合の免責条項は有効なのだが、ここで懸念しているような間違いの可能性を放置したまま回答をして損害をもたらしたら、「軽過失」と言えるだろうか?

その他にも色々考えるべきことはあろうとは思うが、ともあれ記事によれば「チャットGPTを使った相談サイトを4~6月に開設し、法律に関する質問に自動で回答するサービスを始める計画だ」そうである。是非、繁盛して、色々と考えるべき素材が出てくることを期待したい。それを乗り越えてこそユニコーンにもなれるというものである。

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