Book:小麦の法廷
今年読んだ66冊目は『小麦の法廷』
これは面白い。新人で宅弁となっている弁護士が、国選で引き当てた傷害事件の被告人が別の殺人事件のアリバイ工作として犯人になっていると警視庁刑事に告げられ、殺人事件で立件できるように無罪判決を勝ちとってほしいと依頼されるのだ。
それとは別に、知り合いのツテで相続対象財産の共同所有者捜索も引き受けるが、この2つは絡み合うことになる。
色々と突っ込みどころはある。罪を認めている依頼者の意向に反して警察の依頼に基づいて無罪答弁するのが果たして弁護士倫理的にどうよということは、作者も意識していて、というかむしろ小説の大きなテーマでもある。
しかしそれ以外にも、共有者探しを依頼してきた人と、その共有者とは基本的に利害関係が対立するように思うのだが、共同相続人全員から分割について依頼されることもありうるわけで、そういうものと考えたのか。しかしそもそも共有者がいないことを確認してほしいという依頼に対して、共有者を見つけるだけでなくその共有者の代理人となってはまずいだろうと思う。
それに、最大の問題は、傷害事件で、被告人の弁護人が無罪答弁しただけで「裁量的に」裁判員裁判に移行するというところ。筋から言えば、公判前整理があればよく、裁判員裁判にする必要は必ずしもないし、制度を捻じ曲げてまで裁判員裁判を登場させる必要はないのではなかったか。
このあたりは、ぜひ、刑事訴訟の専門家にアドバイスを求めてほしいところであった。
しかし、とにかく面白かった。
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