パリ裁判所見聞
今回の出張の目的の一つは、新設されたパリの一審裁判所での審理のあり方を観察してくることであった。
建物自体が、コロナ直前にかつてのコンシェルジュリーとして用いられていたシテ島のPalais de justiceから、一審裁判所が新たなPalais de justiceに移転されていて、訪問しそびれたままコロナで渡航すら難しくなっていたが、今回ようやくその念願を果たすことができた。
場所はパリの北北西のペリフェリック上にあるPorte de Clichyにあり、地下鉄では13番と14番に駅があるほか、トラム3bの停留所も近い。
威容を誇る高さの建物だが、一審裁判所に用いられているのは、手前に張り出している6階建ての部分で、そこに各種の法廷がある。
一審裁判所と言っているのは、2020年から登場したTribunal judiciaireのことで、従来の簡裁と地裁が統合されてできたものだ。
そして当然ながら少額だったり日本で言えば家事審判になるような事件が多数係属して審理されるので、一人法廷が数多く設置されている。6階建ての中に、ガラス張りが大胆に取り入れられた開放的な、しかし狭い法廷が極めて多く配置されているのだ。
そして事件の表示は、各法廷の前に設置されたスクリーンに表示され、タブレット端末のように手でスクロールして見ることになっている。
ただし、そのスクロールはどうもうまく動かなかった。弁護士も動かそうとして舌打ちして苛立っていたので、例によって先進的だが使いにくいシステムを入れてしまったということなのだろう。
空いている法廷を探してうろつきまわっていると、機関銃を持った警察官に呼び止められてどこに行くのか聞かれたから、事件関係者ではなくて傍聴希望者だというと、親切に「この階の法廷は特に記載がない限り自由に見て良いから頑張って」と送り出された。
それに力を得て、更にうろつきまわっていると、たくさんの事件が表示されている法廷にたどり着いた。
開廷表には(mise)とあり、どうやら準備手続をそのように略するようだ。日本で弁準とか書いてあるようなものであろう。そしてその法廷の扉には、写真のような文書が掲示されていた。
色々と書いてあるが、要するに電子化に伴い準備手続はオンラインで行うので、特に指定がない限り、法廷では行わないということである。
しかし、その隣の法廷では、通常の弁論が行われていたので、これは普通に膨張できた。日本で言う弁論準備に相当する手続はオンラインでやっても、口頭弁論手続は裁判官の面前で、両当事者が対峙して、文字通り口頭で行われている。
実を言うとこの口頭での手続も省略することが可能となって入るのだが、それがどれほどの事件で採用されるのかは未知数である。
また、弁護士を立てなければならない事件は書面審理と呼ばれているのだが、電子化された現在でも紙にプリントアウトされたものが当事者も裁判官も持っていて、それに一生懸命書き込みをしながら弁論を行ったり聞き入ったりしている。傍聴席でパソコンを使っている弁護士はいるが、弁論のときに例えばタブレットとかスマホとかを見ながら弁論する弁護士はいない。紙を使わない文化には、未だになれていないようだ。
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