arrêt:犯罪歴のツイートを削除せよとの請求がツイッター社に対して認められた事例
旅館の女子風呂脱衣場に立ち入ったとして建造物侵入により逮捕され、罰金を支払った上告人は、その逮捕事実の報道記事を引用したツイートの削除を求めて、ツイッター社に対して訴えを提起した。
第一審は請求を認容したが、控訴審=原審は、グーグルに対する検索結果のプライバシー侵害を理由とする削除事件で最高裁が示した「明らか」基準といわれる準則に則って、プライバシーの利益と削除をしない利益の考量でプライバシーの利益が優越することが明らかとは言えないとして、請求を棄却した。
最高裁は、以下のように判断した(改行、引用裁判例省略などは引用者)。
個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象となるというべきであり、このような人格的価値を侵害された者は、人格権に基づき、加害者に対し、現に行われている侵害行為を排除し、又は将来生ずべき侵害を予防するため、侵害行為の差止めを求めることができるものと解される。
そして、ツイッターが、その利用者に対し、情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供するなどしていることを踏まえると、上告人が、本件各ツイートにより上告人のプライバシーが侵害されたとして、ツイッターを運営して本件各ツイート を一般の閲覧に供し続ける被上告人に対し、人格権に基づき、本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによ って本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイ ートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めること ができるものと解するのが相当である。
原審は、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、そのように解することはできない。
以上の一般論に基づき、本件については以下のような事情を考慮した。
・本件事実はプライバシーとして保護される。
・犯罪行為時点では公共性があった。
・逮捕から8年、刑の言渡しからも長時間経過し、逮捕記事自体も削除されて公共性は小さくなっている。
・ツイートは速報目的だったと認められる。
・膨大なツイートの中で、注目されていないツイートでも上告人氏名の検索により表示され、上告人の知り合いに知られるおそれが大きい。
・上告人は公的立場にない。
以上の事実から、「上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する」とされ、削除請求を認めた。
この本件最高裁判決の準則と当てはめのうち、本件事案に特殊なものは逮捕からの年数と差止請求者の立場だけであり、それ以外は犯罪での逮捕報道をツイートしたすべての場合に当てはまると考えられ、本判決の射程は極めて広いように思われる。
それから、なんといっても草野裁判長の補足意見がすごい。
実名報道の効用は「制裁的機能」「社会防衛機能」「外的選好機能」があるとされるが、プライバシー侵害を正当化するような理由にはどれ一つとしてならないと切って捨てている。社会防衛機能については、再犯可能性を具体的に考慮すべき事情があれば別だと留保してはいるが。あと公的職務に就く可能性があるなら、実名報道の社会防衛機能に意義があるとしているところもよい。
第三の「外的選好機能」というのは、「他人の不幸に嗜虐的快楽を覚える心性」に奉仕する機能をいうので、まるで正当な理由になってないというわけである。
草野裁判官にとっては、それで十分であったかもしれないが、やはり実名報道の実害も忘れてはならないだろう。特に社会防衛機能というのであれば、実名報道がネットによって滞留し続けることで実質的に再犯へと追いやられる可能性が高まることも、ぜひ考慮してほしいところである。
ともあれ、過払い金返還請求ブームに近いものになるのではないかという気もする。
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