Book:リーガルイノベーション入門
角田美穂子教授とフェリックス・シュテフェック教授の編著になる『リーガルイノベーション入門』、本屋で見かけて思わず衝動買したら、その翌日に頂いたのでご紹介。
山本和彦先生も巻頭言を書かれ、また随所で討論に参加されているが、本書は一橋大学の2020年集中講義の記録でもある。そしてイノベーションというからには、司法のIT化とか、AIの利用という問題なのかと思うと、それももちろん重要な一部であるが、それだけではない。
冒頭のプロローグには、吉岡弁護士と齋藤弁護士という消費者法分野でも著名なお二人が手掛けた大川小学校津波被災訴訟のインタビューが配置されており、そこでは津波が襲ってくる場面での避難の遅れという、その場における過失論で責任を認めた第一審判決に対して、一審から主張され、また控訴審判決では認められた組織的過失論、すでに津波を予見し、その対策を立てるべき段階で、避難訓練を十分行わないなどの過失があったことを問う形での問題の立て方が、大きなイノベーションとして、創造的な弁護として取り上げられている。
法学部一年生向けの集中講義であってなかなか難しい話だと思うのだが、その意図が伝わると、きっと、法学部の勉強、あるいは法学そのものが未来志向の面白い学問であることに気が付かされていくことであろう。
その後の本論としては、正直言ってかなり難しい最先端な議論が展開されており、特に司法のIT化で見せている日本の現状からすると、空を飛んでいる天馬でも見るような思いでいるのだが、よく言えば日本の司法もようやくその世界の動向を仰ぎ見るところまで来たかという感じはする。もちろんリーガルテックによる法律事務所のイノベーションは進んでいるのだが、それが司法全体のイノベーションのコンセプトを意識できるかどうか、本書の議論は大いに参考になるところ、いや参考すべき内容をたくさん含んでいると思う。
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