Book:表現の自由に守る価値はあるか
今年読んだ42冊目は、松井茂記先生の挑発的なタイトルの著書『表現の自由に守る価値はあるか』
松井先生、アメリカで教え始めてネット社会にどっぷり使って、ついに表現の自由にはペシミスティックになってしまったのかと思うようなタイトルで買い求めたが、憲法記念日でもあることだしと思って読んでみた。
結論から言うと、松井先生が表現の自由なんて守る価値もないと言うはずもなく、現代的なトピックごとに表現の自由はどのように扱われるのかをまともに、豊富な比較法(もちろん特にアメリカとの比較を中心に)的検討を踏まえて、日本法の状況を展望するというものである。
日頃、ツイッターで井戸端会議的な表現の自由論議に興じていると、きちんとした学問的営為に触れて恥ずかしくなるが、憲法素人が表現の自由に興味を抱く発露であり、それはご勘弁いただきたい。ちゃんと松井先生の本も読んでます。
本書で取り上げられるトピックは、以下の通り。
ヘイトスピーチと表現の自由
テロリズム促進的表現と表現の自由
リベンジ・ポルノと表現の自由
インターネット上の選挙活動の解禁と表現の自由
フェイク・ニュースと表現の自由
「忘れられる権利」と表現の自由
いずれも魅力的なタイトルであり、どんどんと読んでいきたくなるものであった。
そして、松井先生によれば、選挙運動規制をインターネットに及ぼす必要はなく、もともと表現の自由の不当な侵害であって違憲であり、ネット選挙解禁は一歩前進とはいえまだまだ不合理な規制(特に有権者のメール選挙運動禁止)が残っているというのである。メールについては、スパムメールの防止としての合理性があるように思うが、議論の余地はあるのであろう。
それから、「忘れられる権利」に関しては、逆転判決でも認められている「更生を妨げられない利益」に対して松井先生はひどく冷たく、裁判の結果は公文書であって永久公開されるというアメリカの状況を引用し、それがプライバシーなのかに疑問を投げかけている。そこには、犯罪者の更生が単にプライバシーによって守られるべき個人的利益という位置づけしかなく、犯罪者の更生を可能とすることがもつ社会的な利益への眼差しが欠けているように思える。
ともあれ、上記のようなテーマに興味がある皆さんには、ぜひ、読んでいただきたい一冊であった。
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