Book:日本の私立大学はなぜ生き残るのか
今年読んだ16冊目は、オーストラリア人とイギリス人が書いた『日本の私立大学はなぜ生き残るのか』
なにしろ、2000年初頭には、私立大学は次々倒産し、20%とか17%の大学が経営破綻するとか消えるとか言われていたのに、結局消えたのは11校(1.5%未満)に過ぎないのだ。
これはなぜかという問い、謎に、日本研究、特に日本の高等教育について研究し、日本の大学に所属したこともある外国人研究者が挑むのが本書だ。
もちろん短大が大きく数を減らし、四大に進む学生が、特に女子が増大したという事はあるが、それだけでは説明がつかないところを本書は解き明かしてくれる。
私立大学の先生となった私としても興味のあるところであり、またこの本ではある大学・メイケイ学院大学=MGUという仮名化された大学を題材の一つにしているが、そこは法科大学院を設置し、約10年後に撤退するという苦渋を味わったところであり、私の専門分野との関係でも興味深いサンプルとなっている。なお、MGUは仮名化されているが、本気になって隠そうとはしておらず、関西で昼夜開講制をとった法科大学院ということでほぼ特定されてしまう。
で、法科大学院はともかくとして、私立大学が経営危機の時代を乗り切りつつある原動力は何かというと、著者たちが出した答えが同族経営に見られるレジリエンスの強さではないかというのである。
この本によれば、日本の私立大学の約40%が同族経営だという。そして経営破綻して消滅したり、合併や公立化によって生き残ったりした少数の大学には同族経営の大学が明らかに少なく、全体として予想外の順応力を発揮したというのである。ただし、そもそも同族経営の大学を厳密に同定することは不可能であり、また同族経営者の手を離れたのかどうかということも見極めることが難しいので、厳密な論証にはならないというが、それでも消滅した11校に同族経営の私立大学は一つしかないということからも、予想外に生き残っているというわけである。
私立大学が生き残るために行うべきことは、同族経営であるかどうかには直接関係ないが、同族経営の場合の利益確保への強いこだわりとそのためのリーダーシップを普段からのトップダウン構造の中で発揮しやすいことが、同族経営大学の生き残りを支えたのだというのが一応の結論である。ただし、その構造が今後も通用するのかどうかは、著者たちは慎重で、むしろ懐疑的ですらあるが。
というわけで、謎とその解明のための仮説の提示、そして論証と、論文のお手本のような本であり、その点でも興味深い。
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