jugement:はすみとしこ+リツイート者の名誉毀損が認められた事例(誤字訂正)
被告A(はすみとしこ)が伊藤詩織さん(原告F)について「就職あっせんをしてもらうために枕営業を行ったものの、採用されなかったため、2年後にレイプだったと主張している」という事実を摘示して名誉を毀損し、名誉感情も傷つけたことに関して、裁判所は、公共性・公益目的は認めつつ、真実相当性がないと判断した。それは酔いつぶれた女の子をホテルに連れ込んで性行為に及んだ山口氏自身も枕営業ということは言ってないし、不起訴処分も不起訴相当の議決も上記事実を示すものではないし、被告が独自に調査した形跡もないからという。
また他のツイートでも伊藤さんが山口氏を訴えて勝訴した一審判決後に、性被害が虚偽で枕営業なのに嘘を言ってBBC番組に出たという事実を摘示しており、真実相当性はないとされている。
ということで損害賠償を命じたわけだが、謝罪広告に関しては、勝訴したことの名誉回復効果、原告自身の情報発信力、被告はすみとしこのアカウントが停止されていることを理由として、その必要性は認められないとした。
被告はすみとしこ関係はあまり異論の余地がないとして、リツイートしたに過ぎないと主張する被告B、C関係は議論の余地がある。
「コメントの付されていないリツイートは,ツイッターを利用する一般の閲読者の普通の注意と読み方を基準とすれば,例えば,前後のツイートの内容から投稿者が当該リツイート をした意図が読み取れる場合など,一般の閲読者をして投稿者が当該リツイートをした意図が理解できるような特段の事情の認められない限り,リツイートの投稿者において,当該元ツイートの内容に賛同する意思を示して行う表現行為と解するのが相当である」
その前提として、元ツイート批判の目的でリツイートする場合は何らのコメントも付加しないことは考えにくいという経験則と、140字限定の気軽な投稿をするメディアという位置づけも置いている。
この一般論の上で、当該事案におけるBのリツイートには、コメントがないことと、その前後に意図を読み取れるものがないということを認定し、さらにBが被告A(はすみとしこ)を勇気ある表現者と称賛していることや本件元ツイートが原告を非難している点に賛否があることもリプライなどから認識できる状況にあったことも認定して、特にイラストが原告を指していることは知らずに保存目的でリツイートしただけだという言い訳を排斥している。
被告Cについてもほぼ同旨であり、独自に漫画という現象のサンプルとしてリツイートしただけという言い訳に対しては、原告から訴え提起の連絡を受けてからも原告に対する批判的ツイートを複数していることを根拠に、元ツイートへの賛同のリツイートだったと結論づけている。
以上を理由にBCとも、リツイート者による、元ツイートの内容に賛同する旨の意思を示す表現行為としてのリツイート者自身の発言ないし意見でもあると解するのが相当であり、同リツイートの行為主体として、その内容について責任を負うというべきであると判示した。
議論の余地があるというのは、単にリツイートしただけでも元ツイートと同じ責任を負うのかという素朴な疑問に対して、この判決がどう答えたのか、そうなのか、それともそこには歯止めがあるのか、あるとしてどんな歯止めなのかという読み方の問題と、その歯止めの存否・内容が妥当かという評価の問題である。
まず判決の一般論はリツイートの前後のツイートなどからリツイートの意図が読み取れる場合を除き、単純リツイートは賛同の意味に解されるというのだが、ここは少々安直で、広すぎるように思われる。実際のリツイートには色々な意図があり得る。誰が見てもおかしいツイートを「こんなおかしなこと書いている人がいる」という趣旨で単純リツイートすることもないとは言えない。判決は前後のツイートなどからリツイートの意図が読み取れる場合を「特段の事情」として留保しているが、リツイート者の責任を問うにあたってその意図を問題とするのであれば、これは「特段」ではなく、常に考慮すべきことであろう。そして本件の解決にあたっても、BもCも元ツイートの内容に賛同していることがありありと分かる行動をツイッターの中に残しているのであるから、はすみとしこの名誉毀損・侮辱的なツイートに賛同し、それと同じ内容を自らのフォロワーに伝える意図を持ってリツイートしたと認められる事案であった。ということで、本件の結論には賛成できるし、下級審判決ではあるがその射程を考えるとすれば、そのような元ツイートに賛同してリツイートしたことが読み取れる事例を前提にリツイート者の責任を認めたものというのが穏当なところである。
しかし、この判決を超えて残される問題としては、そのような意図が読み取れない、むしろそのような意図によらないでするリツイートが、元ツイートで名誉を毀損されたり侮辱されたりした被害者に対して数の暴力、拡散により多数の目にさらされる暴力、そして消すことができなくなる暴力として機能していることをどう評価するか、考える必要がある。
はすみとしこの政治姿勢に賛同する人たちだけでなく、それ以外の多数のノンポリ(死語だがこの場合はピッタリ)がリツイートするからこそ、彼女の名誉毀損ツイートが影響力を大きく持ち、伊藤詩織さんのような被害者を傷つけている。その意味でリツイートすることは確実に名誉毀損の被害を広げる一助となっている。
その一方で、リツイートとかシェアとか、一般大衆が拡散する行為がSNSの存在意義であり、それがあって初めてマスメディアをも凌駕する影響力を持ちうるのであるから、そのようなリツイートを元ツイートと同じ表現主体と扱うことはSNSの存在意義を否定することにもなりかねない。
この点については、自分自身結論が出ていないところであるので、今後も考えていきたい。
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コメント
名誉を「既存」となっています。
※このコメントは削除してくださって構いません。
投稿: aska | 2022/02/12 10:33
有難うございます。お嫌でなければ残しておきます。
投稿: 町村 | 2022/02/12 10:41