arret:憲法53条に反する国会召集懈怠が国賠法上違法ではないとされた事例
前段は、国会召集を求めた各議員に対する内閣の職務義務違反に基づく国賠を、後段は国会召集を求めた各議員の国会活動を妨げたことによる国賠を、それぞれ求めているが、いずれも棄却した。
前段の判断において、「国会の臨時会召集要求という権限行使に応じないときには,国会による自律的な活動の開始を妨げたものとして,国会ひいては全 国民(憲法43条1項参照)に対して政治的責任を免れないといわざるを得ない」としつつ、「実質的には国会と内閣という機関相互間における権限の行使に関する紛争であるから,本来的には国民の権利義務ないし法律関係には直接関係しないというべきである」と判示して、個々の議員との関係での違法問題となることを否定した。
後段は、控訴審における補充主張に答えたもののようだが、まず召集要求自体は国会の権限であって個々の議員の権限ではないから、その侵害は国会との関係での公益に解消されるとしつつ、召集要求それ自体以外で個々の議員の権利利益を侵害したと言えるかと問題設定し、国会活動の自由侵害だとする主張がそれに当てはまるかどうかを判断する。
もっとも、その後の論理は、かなり難渋である。召集懈怠により国会活動が妨げられたとしても、その国会活動は召集要求をした議員とその他の議員とで異ならず、また内閣自身の臨時会召集とも、さらには常会、特別会とも異ならないのであるから、「控訴人が主張するなし得たであろう国会活動の内容は,仮定的ないし抽象的な可能性をいうに留まっているといわざるを得ない」、したがって国賠法が保護するものではないという。
この論理展開はかなり飛躍していて、召集要求をしたかどうかで国会活動に違いが生じないとしても、召集要求をした議員たちの国会活動が「仮定的ないし抽象的な可能性」になるわけではない。その他の議員たちの国会活動も等しく妨げられ、いわば国会全体の機能が損なわれたのだとしても、召集要求をした議員たちの国会活動が妨げられたことが現実的な被害でなくなるわけではないのだ。
いわば、公害で健康被害を受けた人たちが損害賠償を請求した場合に、他に被害者がいるからといって、あるいはその地域全体が等しく被害を受けているから被害者は地域全体であるということはできても、個々の住民が被害者ではないということにはならない。
この広島高裁岡山支部の判決は、個々の議員の国会活動が妨げられたことが、保護に値しないことを論証し切っていないというべきであろう。
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