令和3年の重要判決はどれだ?
年末らしい企画として、今年出た重要そうな判決を集めてみた。
以下の裁判例の中で、あなたが重要だと思う判決は、どれだろうか?
いろいろな観点で重要だと思うものがあったら、グーグルフォームにチェックを入れてほしい。
知財高判令和3年12月8日
タコ型すべり台が美術の著作物に当たるとして、模倣物製造者に対する著作権侵害を主張したが、著作権の成立を認めず、不法行為も認めなかった原判決を支持して控訴棄却した事例。
最決令和3年11月30日
性同一性障害による性別変更の要件に未成年の子がいないことを必要としている点は合憲とする決定。
この決定それ自体よりも、これに付された宇賀克也裁判官の反対意見が論理的かつ合理的であるとして評判になった。未成年の子にとって親の性別変更は福祉として好ましくないという理由は、戸籍の変更よりも外見や日常生活上の性別変更の方が大きいのであって、戸籍の変更を許さない理由としては十分な合理性を有しないとして意見だとするものであった。
大阪地判令和3年11月11日
死刑確定者と再審請求弁護人との面会において、面会時間の延長もパソコンの使用も認めなかった拘置所長の措置が違法であり、過失があるとして国賠請求が認められた事例。
大阪高判令和3年10月28日
大阪府立高校の生徒が繰り返し頭髪を黒く染めるよう強要され、授業等への出席を禁じられるなどしたことから不登校となったところ、名簿から削除されたり机を撤去されるなどの措置を受けたことが不適切であるとして国家賠償または債務不履行による損害賠償を請求した事例で、髪を黒く染めろと指導することは違法でも安全配慮義務違反でもないとし、名簿から削除した点などについては違法性を認めて一部認容した事例。司法がブラック校則を是認したなどとして話題となった。
東京地判令和3年10月6日
吉川貴盛農水大臣に対する贈賄側の有罪判決。
高松高判令和3年9月29日
福島第一原発事故により避難を余儀なくされた原告らが原賠法に基づき損害賠償を求めた事例で、国については監督権限不行使により本件事故が発生したことを認めて損害賠償義務を認め、東電についても共同不法行為として連帯責任を認め、ADRで認められた額よりも高額の慰謝料を認めることも相当であるとした。
東京地判令和3年9月17日
順天堂大学に対する消費者機構日本の共通義務確認訴訟が認容された事例。共通義務は、女子および多浪生の受験生に対する不利益な取扱いを行っておきながら、その旨を予め示さなかったことが不法行為に該当するというものである。
名古屋高判令和3年9月16日
トヨタ自動車の従業員に対して上司が継続的にパワハラを行ってうつ病に追い込み、ついには自殺させた事件に関し、労災の適用を認めなかった労基署の処分を違法として、遺族補償給付等の不支給決定を取り消した事例。
東京地判令和3年9月7日
秋元司国交副大臣に対するIR汚職事件と偽証させるための証人買収の罪で懲役4年の実刑判決が宣告された事例。
広島地判令和3年7月28日
臓器移植の手術やレシピエントのインタビュー、ドナーへの手紙などを放映したことがドナー遺族に対する不法行為となるかどうかが争われた事件で、テレビ局、執刀医、移植コーディネータのいずれに対する請求も棄却された事例。一般の関心の高いテーマであり、番組の構成等からしても相当性が認められ、遺族の受忍限度内にあるというのが理由である。
東京地判令和3年7月19日
カルロス・ゴーン日産社長の海外逃亡を手助けしたアメリカ人について、犯人隠避罪が成立するとして実刑判決が言い渡された事例。
最判令和3年7月19日
非公開会社の監査役で監査の範囲を会計に関するものに限定されていた者が、横領していた従業員によって偽造された残高証明書を真正なものと信じて帳簿書類と整合していることを確認の上で適正意見を付けたことが任務懈怠に当たらないとした原審について、最高裁は「会計限定監査役は、計算書類等の監査を行うに当たり、会計帳簿が信頼性を欠くものであることが明らかでない場合であっても、計算書類等に表示された情報が会計帳簿の内容に合致していることを確認しさえすれば、常にその任務を尽くしたといえるものではない」と判示して、破棄差戻した事例。
大阪地決令和3年7月9日
「表現の不自由展かんさい」のために利用を申し込んだエル・おおさかの利用承認が取り消された件について、取消処分の効力の停止を決定した事例。「管理者が正当な理由もないのにその利用を拒否するときは、憲法の保障する集会の自由、表現の自由の不当な制限につながる」と判示し、「抗議活動には、表現の自由の一環として保障されるべきものもあるのであるから、一定の限度では受忍するしかないともいえる」とも判示している点が注目される。
最大決令和3年6月23日
夫婦別姓による婚姻届の不受理に対して受理を命じるよう求めた訴訟において、多数意見は夫婦同氏の強制が合憲であるとしたが、宮崎裕子、宇賀克也、草野耕一の各反対意見が付せられた事例。
最判令和3年6月15日
拘置所に未決勾留されている者の診療録記載事項開示請求について、刑事事件等の裁判や処分、執行等に関する保有個人情報は開示対象外とする規定を根拠とした不開示決定を不服とする訴えで、宇賀克也裁判長率いる第三小法廷は旧法からの経緯も含めて検討し、医療行為に関するインフォームド・コンセントの重要性も考慮して、開示対象外とする規定の適用はないと判示し、不開示を相当とした原判決を破棄差戻した。なお、宇賀裁判長の補足意見も付されている。
最判令和3年5月25日
カリフォルニア州で下された懲罰賠償を含む損害賠償認容判決についての日本における執行判決請求事件で、一部弁済が懲罰賠償部分に充当されるのかそれ以外の部分に充当されるのかが争われ、最高裁はそれ以外の部分に充当されると判断した。
前提として、懲罰賠償を認めた判決は公序良俗違反として日本では承認されないので、一部弁済が承認されない部分に充当されるよりも、承認される実損害賠償命令判決部分に充当されたほうが、執行判決の対象額が小さくなるのである。
最決令和3年5月12日
酩酊し抗拒不能の状態にある女性を姦淫して準強姦罪に問われ、一審は抗拒不能状態の認識があったとは断定できないとして無罪判決を下したところ、控訴審では被告人質問で黙秘されたのみの証拠調べに基づいて一審を取り消して有罪判決を下した事例。最高裁はこのような経過によっても違法ではないとした。
フラワーデモの発端の一つとなった事件について逆転有罪判決が下されたことで話題となった。
最決令和3年3月29日
父母以外の第三者が事実上子を監護してきたとしても、当該子との面会交流を定める審判申立をすることはできないとされた事例。
本件の事案は、子の父と母方の祖父母との争いである。祖父母宅での両親と子の同居状態から父が別居した後は、子の監護は父と母とが1〜2週間ごと交代で行い、母の監護を祖父母が補助していた。しかし母が死亡した後は父が単独で監護しているという状況で、祖父母が子との面会交流を求めたというものである。
原決定は面会交流の申立てを適法と認めたが、最高裁は申立権がなく本件申立ては不適法とした。
最判令和3年3月25日
中小企業退職金共済法による死亡退職金は、同法によれば配偶者が最先順位の受給権者と規定されているが、本件事案では死亡した従業員の民法上の配偶者が存在したものの、婚姻関係は破綻して事実上の離婚状態にあったため、配偶者ではなく次順位の受給権者である子に支払われるべきと判示された。
東京地判令和3年3月24日
国会召集を求める憲法53条に基づく要求を黙殺した内閣の行為が違法であるとして、召集義務確認と国家賠償を求めたが、前者は法律上の争訟に当たらないとして却下され、後者は召集を受ける地位が法律上保護された利益には該当しないとして棄却された事例。
最決令和3年3月18日
脅迫メールの送信を受けた者が、送信者情報の開示を目的として送信者情報が記載された電磁的記録等の検証を証拠保全として申し立て、原審は証言拒絶権の類推適用にもかかわらず脅迫メールに関してはその送信者情報が保護されるべき秘密に該当しないとして検証物提示命令を認めたが、最高裁は証言拒絶権に基づき提示義務を負わないとして破棄自判した。
東京地判令和3年3月10日
森友学園の土地取得に安倍首相周辺が働きかけて不当に有利な条件で土地が売却されたのではないか、加計学園の獣医学部新設に安倍首相の意向が働いたのではないかという朝日新聞の報道に対して、飛鳥新社と被告が書籍において朝日新聞の捏造、虚報だとする記述をしたことが名誉毀損に該当し、真実性も真実と信じる相当性もないとして、朝日新聞社による損害賠償請求を認めた事例。
最決令和3年2月1日
国際捜査共助によることなく行われた越境リモートアクセスによる捜索差押えが適法であるとして証拠能力が肯定された事例。
最判令和3年1月22日
取立訴訟の訴訟物である売買契約の売買代金請求権に対して、被告買主が売主の債務不履行による損害賠償請求権を自働債権とする相殺の抗弁を主張し、その損害として弁護士報酬を挙げたところ、原審は売買契約の売主に対する処分禁止の仮処分、移転登記請求訴訟、建物収去土地明渡請求訴訟のそれぞれの弁護士報酬を債務不履行に基づく損害賠償の根拠となると判断した。
しかし最高裁は、土地売買契約の履行を求める訴訟行為を弁護士に委任しても、その報酬を債務不履行による損害賠償として請求することはできないと判示した。
重要だと思うものについては、グーグルフォームでチェックを入れてほしい。
忘れていたものを追記。
札幌地判令和3年3月17日
ご存知、同性婚を認めない現行民法は平等原則に反し違憲であるが、国賠は認めなかった事例。
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