Book:近江商人と #出世払い
今年読んだ59冊目は、近江商人と出世払い: 出世証文を読み解く (538) (歴史文化ライブラリー 538)
法律学では、出世払いというのはいつか返せるようになったら返すということではなくて、返せるかどうかはっきりした段階で返すという約定だという解釈で学生を煙に巻く(ついでに停止条件と不確定期限との違いを説明する)ネタとして有名であるが、実のところどうであったのかということが、この本で分る。
まずそもそもが、出世払い証文というのが近江商人の間で広く行われ、それが全国にも広まったということが驚きだが、無知な私は伊藤忠商事とかが近江商人の出であることも知らなかった。
そして、法制史の方では、既に前近代の倒産である「身代限り」となったときに、残債務を事実上の免責にする証文として出世払いが使われていたと解釈されていた。
この本ではそれが誤りという書き方もされていたが、結局は、半分正しいというところであろうか。
身代限り以外の場面では、不祥事を起こしてクビになった商人の店員がその賠償をいつか致しますという趣旨で差し入れてもいたようだ。
そして、倒産した商人の残債務にせよ、クビになった店員の賠償債務にせよ、全く免責というわけではなく、まさに出世したら、財政状況が改善したら、律儀に返したこともあったようだ。
この行動様式は、近代法の下で免責が認められても、なお羽振りがよくなったら昔の借金を返すべきだという、法律家にはきっぱり否定されても根強くそうあるべきと思う日本人の法感情の源というか、そうした法感情の発露なのであろうと、少し納得する思いである。
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