Book:歴史修正主義 ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで
今年読んだ50冊目は、武井彩佳先生の歴史修正主義-ヒトラー賛美、ホロコースト否定論から法規制まで (中公新書, 2664)
日本で歴史修正主義というと、南京虐殺否定論とか従軍慰安婦=売春婦論とか、さらには真珠湾攻撃はルーズベルトの陰謀説などだが、それらがちらちらと出てくるものの、メインテーマは著者の専門のドイツ、それもホロコーストだ。
以前、映画「否定と肯定」を紹介したが、そのアーヴィング事件も一章を費やして紹介されている。映画の主人公だったアメリカの女性教授と多分ソリシターの写真も。この映画を見た人にはまた格別の味わいだ。
そして、全体を貫くトーンは、歴史修正主義、あるいはもっと進んで歴史否定の態度が合理性とは関係のない決めつけによって出来上がっているので、議論することが無駄であるということなのだが、その中心線の周りに、例えば生き証人の証言をどう否定するか、自分の体験の一般化、見たいものだけを見る姿勢、不可知論、針小棒大という詭弁テクニックの数々があり、また修正主義者の動機が反ユダヤ主義にあったり自国歴史の美化にあったり、様々であることが示されている。
また、歴史修正主義と歴史の見直しとの境界線を現象的には難しいものの、一定の動機に導かれた意図的な歪曲なり捏造なりが歴史修正主義として非難されること、歴史修正主義と歴史の否定とは区別されるようになってきていることなどが示されている。
そして、後半では、ヨーロッパ各国が採用する歴史修正主義・否定論に対する法規制をかなり詳しく紹介し、欧州人権裁判所の裁判例なども紹介されている。
日本における歴史修正主義の法規制の是非を考える上でも大いに参考になる本である。
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