Book:むずかしい天皇制
今年読んだ47冊目は、大澤真幸・木村草太『むずかしい天皇制』
ざっと目次を見ただけでも、現代における天皇のあり方だけでなく、歴史の中の天皇のあり方も追求されているのだが、中身も期待を裏切らないものであった。
天皇制は、廃止しようと思っても出来ないことが、日本の歴史を通じて言えること、古代の律令制がすぐに荘園制となり、武家政治となっても、依然として天皇との距離が各時代の地位の高さを決めてきたこと、かなり蔑ろにする個人は何人も現れてきたが、それは長続きせず、江戸時代がもっとも朝廷の影が薄かった。それにも関わらず、維新の前の開国のときに突如として朝廷が存在感を持ち始めたのは、やはり不思議である。
私が想像するには、開国を迫られた幕府が苦し紛れに朝廷の許しがないとダメだとペリーにいい、朝廷の許し(勅許、あるいは西洋的には批准か)が必要となったので、形ばかりでも朝廷の同意を得ようとしたら、案外に同意されなかったということなのではないか。
それはともかく、明治政府は、天皇を旗印にはしていたが、しかし実権を与えようとはこれっぽっちも思わなかったし、実際孝明天皇にせよ明治天皇にせよ、良き判断をしてくれると期待できる人物ではなかったというのが著者たちの語る明治新政府、特に伊藤博文の天皇観であった。
そういうわけで、天皇は全権を持っているようでその権能を積極的に行使する立場ではなく、いわば棚上げされていたが、しかし明治憲法が軍に対するコントロールを甘く見ていたことがその後の破局につながったのだという。
全体を通じて、大澤さんがしゃべり、所々で憲法学的には、ということを木村さんが説明させられるけれども、基本的にはそれはもう分かっている大澤さんが話を続けるという感じで、対談と言うか、大澤さんが木村さんをゲストに迎えたトークショーという感じである。
また、やや牽強付会かなと思うところも、例えば非正規と正規との立場の違いは明治時代の官僚登用が天皇への近さにより違っていたことの残滓だみたいなところがあるが、全体としては全く穏当な、常識的な話が多い。
そして、その常識的と思われる観察は、ネットで言えば炎上するんじゃないのと思われるようなことでもある。
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