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2021/06/04

Book:社会的排除と法システム

新進気鋭の法社会学者、橋場典子氏の『社会的排除と法システム』を、今年読んだ30冊目としてご紹介する。

 既に、随分前に送っていただいたが、長らく妻の管理下にあったので、改めて読み直してみた。

著者は、法テラス職員の経験もあり、北大の大学院では尾崎一郎教授に師事して法社会学の研究を行ったが、その際のテーマは社会からの排除と包摂を法を舞台として考察するというものである。より突っ込んで言うと、社会的包摂をいかにして実現していくか、その際の困難はなにか、 その困難は克服可能かという、極めて実践的な問題意識に基づいていた(と思う)。

Delacroix 法システム(要するに裁判制度とか、弁護士の相談助言、代理サービスとか)の利用ができないでいる原因には、お金がなくて相談や利用ができない(貧困)とか、利用できることを知らないとか、近くに相談や利用ができる機関がない(司法過疎)とかがある。これらの構造的な問題には、司法制度改革で法曹の増員とか法テラスとか、公設法律事務所とか、民事法律扶助とか、様々に手当をしてきた。

しかし、利用できる環境を構造面で整えても、利用しない人たちはたくさんいて、その人達を包摂するにはどうしたら良いのかというのが本書の問題意識である。

著者は、ホームレスや失業者など社会への参加や帰属がほとんど欠如している人たちに対して、制度の側に立つ人々がしばしば向ける視線が自己肯定感を傷つけ、住居や職業の確保にも間接的な妨害となる可能性を指摘し、しかもそれが無戸籍児のように生まれながらに社会への参加が妨げられている状態に置かれる場合もあるという。そうした点に無自覚なシステム構築や運用が、不平等状態の助長に至っているという。

こうした問題意識の下、本書では日本と外国の社会的排除の実態をまず確認し、社会的排除からの脱却に有効なアプローチを外国の例に見出す。

次いで法教育や法システムがもつ社会参加型教育の理念の限界を確認する。

そして、法システムが機能する場合の属人的要素と信頼とに着目し、先行研究やフィールドワークの成果を活かしながら、システム作動の二大要素たる構造的観点と心理的観点をつなぐ役割を属人的な信頼が果たしているとし、その具体的な姿として弁護士のみならずソーシャルワーカーなどの専門職との協同の重要性を指摘される。

属人的な信頼は、まさに属人的であるがゆえに、一般性とか継続性とかに欠ける問題点があり、その点については支援者支援の必要などの萌芽を指摘しつつ、将来の課題に残している。

 

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