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2021/05/03

同性婚と選択的夫婦別姓

大学の授業は二年連続のオリンピックシフトのせいで休日を奪われてしまったが、憲法記念日であるので、憲法に関することを考えてみた。

Mamabebe_20200215183101 最近は憲法論議のホットイシューが多様化しているが、特に議論が盛んなのが、表題に掲げた同性婚と選択的夫婦別姓という2つのテーマである。家族関係には、他にも生殖補助医療の発達による親子関係のゆらぎが大きなイシューで、こちらの方はさほど政治的対立にならないせいか立法論議が静かに進んでいる感がある。とはいえ難しい問題だけに、スピードは遅いが。

それに対して選択的夫婦別姓が立法と司法の両フィールドでチャレンジされ、現状維持の厚い壁に阻まれつつも、導入を求める声がますます強まっているし、世論調査ではどうやら選択的夫婦別姓導入に賛成意見が多数を占めるようになってきたらしいというのが現状であろうか。それを背景に、立法論議が政権与党内でも盛んになってきているように見える。

また同性婚も、国の制度としてパートナーシップすら導入していない周回遅れの日本ではあるが、海外での同性カップル保護と法律婚承認の波に押されてか、次第に導入の是非をめぐる議論が高まっており、下級審の傍論とはいえ、同性カップルに婚姻制度の適用を全く認めない現状を違憲とする判決もだされている。

 

この両方の議論は、それぞれ論点も違うし、制度導入を求める当事者もおそらくほとんど重なっていないが、北海道新聞社の世論調査では双方を同時に聞いていて、その結果が興味深い。

 

同性婚容認70% 夫婦別姓は賛成68% 全道世論調査 世代間で認識に差

最終結論の違いはまあ誤差の範囲かもしれないが、同性婚の方が若干賛成派が多い点が興味深いし、記事の中でも触れられているように、年代が高くなるにつれて反対、すなわち現状維持の割合が高まる点、それから男性と女性とでは男性の方が反対が多くなる点、いずれもとてもステレオタイプに忠実な結果となっている。

さて、憲法との関係でこの2つの問題が出てくるのは、もちろん、憲法24条のフィールドだからというのもあるが、マイノリティの問題だからである。

社会的なマイノリティ、少数派が、多数派の状況を前提とした法制度の適用対象に入れてもらえていない場合で、その法制度が国民の幸福につながる制度であるときに、少数派に対する差別と幸福追求権の否認という問題になる。すなわち憲法14条と13条とがセットで出てくる。

そしてマイノリティの保護こそは、民主的正統性から独立した司法権の本来的フィールドだ。多数派の意思が実現される議会制民主主義の中では、マイノリティ差別が起こりやすいというのは理の当然であり、同性婚にせよ夫婦別姓にせよ、その典型例ということができる。そこに法の下の平等と幸福追求権保護を掲げて制度の違憲性を突けるのは、まさに違憲立法審査権を与えられた司法権に期待される本来的役割なのである。

とはいえ、民主的コントロールの下にある立法府や行政府がマイノリティ保護に全く機能しないというわけではない。それは議会制民主主義であり、間接民主政の妙味というところであり、多数派が少数派に与える温情というレベルではなく、立法者として選任された人々の資質として、マイノリティの利益を蔑ろにしないとか、不合理な理由で差別的取扱いを是としないという理性ないし正義感が期待される。

ま、現実の国会議員たちで目立っている人たちを思い浮かべると、失笑を買いそうな話ではあるが、この立法プロセスに関与しているのは多数派の民意を直接受けている議員たちだけではなく、行政官僚の役割が大きいし、法制審議会を代表例とするが、行政庁内で様々なレベルで行われている立法準備作業に携わる有識者たちやステークホルダーたちの見解の役割もまた、場合により、大きいものがある。こうした立法プロセス全体を見て、政治的対立の激しい分野ではなかなかうまく行かないが、そうでない大部分の領域では、マイノリティの利益を蔑ろにしない制度が立法府と行政府の中からでてくる。

実のところ、選択的夫婦別姓制度は、そうした立法プロセスの中からでてきたものが政治的対立により押し返されてしまった例で、それだからこそ余計に司法の役割が期待されるのだが、立法府・行政府の側もまた、時代の進展で国民意思の変化が見られると、かつてダメだった例も今度はうまくいく可能性がある。

ま、そんなことをつらつら考える憲法施行74年目の初夏であった。

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