Book:女性と戦後司法〜裁判官、女性がおわかりですか?
前作がDV被害者の立場から告発の書という感じであったのに対して、こちらは、もう少し法曹界の男性優位さを描き出して、その中で女性が台頭する道筋を追うものとなっている。
しかし、冒頭に現れる女性法曹に対する昔の人の発言は、当時の価値観を現在の価値観で切ることが不毛であるにしても、呆れ果てるしかない。
「女性のかたがここにおるので言うが、最高裁は女性を採用しないということはないが歓迎はしないことは事実だ」(昭和44年、司法研修所所長の裁判官志望者に対する講話)
「女性につきましては、これは私どもの方で取扱いを特に異にすることはございませんが、しかしながら第一線の所長さん方からはあまり喜ばれないというようなこともあるものでございますから、そういうような一つの空気はあるわけでございます。」(昭和45年、矢口洪一人事局長の国会答弁)
「年長者、身体障害者、女性についてはあまり歓迎しない。(中略)一筋縄でいかぬ職員組合の猛者を押さえる必要があるから女性には気の毒だ。夫婦とも裁判官の場合、任地の調整が大変で妻が夫の足を引っ張る結果となる」(同年、矢口洪一の修習生任官説明会)
「労働事件、公安事件、刑事事件は通常女性には不適当なので割り当てない。なぜ不向きかは常識である」
「産前産後の休暇等の配慮がかえってマイナスになる。効率的な面からいえば最高裁は女性は取りたくないとはっきり言っても良いのではないか」
「男性と女性の成績が同じ場合は自分ならば男を採用する」(以上、同年人事局任用課長、司法研修所長の女子修習生に対する説明会)
「女性は問題がある。かなりの女性裁判官が裁判官と結婚しており、そのため任地調整が困難だ。ご主人と関係なく配置できれば男性と区別しない。しかし現地ではできるだけ男性が良いとの声がある」
「女性たることで特別扱いをすることはできず、男性と伍して仕事をして欲しい。女性裁判官の場合、独身であれば問題はない。結婚しても別居は覚悟した上で任官希望して欲しい」(いずれも昭和46年矢口洪一の任官説明会)
「夫婦で裁判官になることは好ましくない。二人で希望してきたときは一人には辞退してもらう。過程で全面的サービスを受ける裁判官とそうでない裁判官とでは仕事の上で違う」(昭和47年矢口洪一の女性法律家との懇談会)
まあまあ、すごいとしか言いようがないが、こうした発言がおかしいと思われることもなく堂々とまかり通った時代だったわけだ。
そして過去のことだと思った皆さん、ついこの間の東京医大の女子受験生差別事件に、これと似たような意見がまかり通っていたことを思い出すべきだし、夫婦で裁判官となった場合の任地調整に現在でも苦心していることは言うまでもない。そして夫婦で裁判官を志望しているなら当然一人は諦めるべきというときに、流石に上では明言されていなかったが、当然の暗黙の前提として女が諦めるのが当然という空気は当時も今も健在だろう。
ということで、言葉狩りは成功しているかもしれないが、意識の上での差別は、今も、管理者側の意識に深く刻み込まれているだろう。
しかし、これに対して抵抗を続けてきた「司法研修所における女性差別を許さぬ、女性法律家の会」とか、今、ジェンダー問題について結構しっかりと活動している模様の「女性法律家協会」とか、そうした女性たちの運動も、本書に描かれている。
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