不倫裁判の被告が非公開を望んでも・・・
誰にも知られず「不倫裁判」を終わらせたい 非公開にはできる?
弁護士ドットコムの上記記事は色々と考えさせられる。
裁判の当事者が、裁判の公開で自分が当事者となっていることを世間に知られるのではないかと恐れを抱くことは、気持ちとしては分かる。
ただでさえ、裁判所に訴えられること、被告と呼ばれることには、刑事裁判との混同も相まって悪い印象がある上、不倫の相手方に対する世間のバッシングの強さ(特に女性が不倫相手だと凄まじい、が例外もいるが)を思えば、世間にはもちろん周囲の人に知られたくないと怯える気持ちは分かる。
とは言え裁判は公開であるのが原則である。それこそ江戸時代以前から「公事」と呼ばれていたことからも明らかなように、プライベートな揉め事でも内々では収められなかったために、「出るところに出る」に至ったわけである。
そして、その公的な場で行われることはむき出しの公権力の行使でもあるので、そのプロセス(処理の仕方)やアウトプット(判断内容)については民主的な統制が必要であることもまた当然である。
ただし、裁判は独立して行われなければならない。少なくとも政治権力によって左右されてはならないし、ということは世間の多数派が正規のルートで選出した代表者によっても処理方法と内容について個別事件への干渉があってはならない。一般的なルールは、処理方法(手続法)も判断内容(実体法)も民主的な代表者が決めるのだが、それを個別事件で適用する場面では一切の干渉があってはならない。では野放しかというと、間接的なコントロール方法はいくつか置かれている。一つは裁判官弾劾制度や最高裁裁判官国民審査であるが、そのような劇薬よりマイルドな方法として裁判の公開によるコントロールである。
というわけで、裁判の公開は極めて重要な民主主義の要素であるから、ありふれた揉め事で社会的には関心の対象でもない個人間の小さな揉め事だとしても、処理の仕方が不公正でないのか、処理結果は法と社会の価値観に沿ったものであるのかどうかは公開の場で検討対象となることが必要である。
とは言え、個人情報とそれに紐づくプライバシーを全く蔑ろにしても良いというわけではない。その点で現在の制度は、少なくとも民事裁判は書面交換が中心で無関係の第三者が立ち聞きして内容を理解することにはハードルがあるし、確かに当事者名は法廷に行けば原則として分かるが、これをネットで広く表示しているわけでもない。そうすれば便利だろうなと思うところをやらないでいるのは、プライバシーリスクを大きくしない配慮である。
さらに、この案件が夫婦間の離婚裁判という形で扱われている場合は、特別ルールで非公開の証人尋問や本人尋問がされることもありうる。不倫相手に対する裁判は、内容は同じでも夫婦間の裁判ではないので、この特別ルールは適用されない。この点ではやや片手落ちな印象は拭えないが、どこかで線を引かなければならない。訴訟記録も、「何人も」閲覧できるのだが、特にプライバシー保護をしないと生活していけなくなるという場合には秘匿措置が可能である。
判決も、今は一般に公開する場合は匿名化が施されている。
ということで、裁判の公開とプライバシー保護とのバランスは、それなりに図られている。相手方が被告の不倫の事実を世間にバラすという方がよほど現実味のあるリスクだが、それはそれでプライバシー侵害を理由とする損害賠償義務を負うかもしれないというリスクがあるわけで、やはり法教育がここでも大事だなと言うことになる。
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