裁判例オープンデータ化論議と個人情報保護法
水町先生が、判例集の個人情報保護法上の解釈というブログエントリを挙げられた。
日弁連法務研究財団が進めている検討会で、第2回の有識者のヒアリングに水町先生が登場されたが、その議論とほぼ重なる内容である。
今回のブログエントリでは、医療情報の話以前に判例集や判例データベースでの判決文公開が個人情報保護法上の適用を受けるか、とりわけ個人情報・個人データ該当性、要配慮個人情報該当性、そして適用除外規定の該当性について完結に記されているので、非常に勉強になる。
詳しくは上記のブログ記事を読んでもらいたいが、以下の点をつまみ食い的にメモしておこう。
事案の概要などから誰が関連する事件かが分かってしまう場合は、その「誰か」が検索できるようになっているわけではないので、「個人データ」には当たらない
わかってしまう誰かに関する人種、信条、社会的身分、障がい、医療関連、犯罪関連の情報が判決文に含まれていれば、判決文は要配慮個人情報に当たる
少なくとも刑事犯罪で誰かが分かってしまうものは、すべて要配慮個人情報ということになろうか。
要配慮個人情報の判例データベースによる提供、ここが最も重要なことであるが。
著述を業として行う者が著述の用に供する目的で個人情報を取り扱う場合や、大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者が学術研究の用に供する目的で個人情報を取り扱う場合
この適用除外がどこまで及ぶかがポイントとなろうか。
そして、適用除外が及ばないデータベース提供業者の場合に、水町先生の主張はこれだ。
17条2項のうち、判決文の裁判例データベースへの搭載が許容される根拠条項があるかというと、以下の通り、結構難しいかと思います。
もっとも、中にはこれが注目できる。
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当該要配慮個人情報が、本人、国の機関、地方公共団体、第七十六条第一項各号に掲げる者その他個人情報保護委員会規則で定める者により公開されている場合→裁判所や研究者・著述家が公開しているものを裁判例データベースに搭載する場合は、これによって許容されうる
ということで、裁判所が「公開」した判決文かどうかということが問題となる。独自取材分とか、公開とは別に判決文をデータベースに入れるために提供することは「公開」といえるのかとか、疑問は色々出てくる。
悩ましいところである。
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コメント
水町です。日弁連法務研究財団の検討会では、大変お世話になりました。
検討会で、ご質問にきちんと答えられなかったので、まずはブログ上で検討してみようと思って、書いたエントリです。ブログエントリを要約して検討会事務局に追ってお送りしようかとも考えたのですが、かなり細かい話になりますし、どうしようかと思いあぐねて、そのままになっておりました。
そうしましたら、なんと先生のブログでご紹介いただいたのを知りまして、コメントを書かせていただいております。
おっしゃる通り、個人情報保護法17条2項5号の国の機関等による公開が一番近しい根拠条項となりそうですが、確かに「公開」といえるかという問題も出てきますし、本当に悩ましいところです。加工をどうするのか、個人情報保護法上の根拠条項をどうするのか、立法措置?など、いろいろと検討事項がありそうです。
話は変わりますが、大学の先生とお話させていただくと、つい自分は学生の立場の気がしてしまい…。日弁連の検討会で、先生方からご質問を受けたときは、口頭試問かと冷や汗でした笑
またぜひご指導いただければ幸いです。
投稿: cyberlawissues | 2020/08/14 14:41