edu:神奈川大学教職免許更新講習「法教育」
神奈川大学の教員免許状更新講習で、法教育の講習を体験参加した。
そのタイトルが「弁護士と学ぶ法教育〜アクティビティの体験を通して〜」というもので、神奈川県弁護士会を中心とする多数の弁護士が企画立案段階から関与して事例と問題を作成し、これに経験豊富な中学高校の先生たちも加わって、教員免許状更新講習に合致するようなプログラムに育てていく。そして、その中にはアクティビティと称して、いわゆるグループワークを駆使した学習方法を行う。
今回は、体験として、更新講習を受講する先生たちに混ぜてもらい、アクティビティの議論の中にも参加者として入れてもらった。その経験は、大学の法学教育にもとても貴重なものとなるというのが実感だ。
プログラム全体の構成は、まず神奈川県弁護士会の村松謙先生と神奈川大学の井上匡子先生とによる法律(学)と法教育は何かという講義があり、アクティビティのやり方についての解説も行われた。その一日目の午後、まずA〜Dの4つの事例ごとのアクティビティグループに分かれて、それぞれファシリテーター役の弁護士2、3名とグループワークを行う。その具体的な手法はグループごとに異なる。
A 身近なルール作り
近隣騒音トラブルを題材として、その解決策を探るもの。これはロールプレイングも行い、ルールメイキングも行う。
B 立憲主義
身近な問題や国政レベルの問題を6つづつ挙げて、多数決で決めてよいかどうかを決めるもの。これは座標軸の変形であり、グラデーションと呼んでいる。
C ディベート
手続的正義とペナルティの可否を題材とした賛成意見と反対意見との主張と反駁。これは方法論としてディベートである。
D 配分的正義と匡正的正義
多数人内のパイの分け方と一対一の間での問題解決とを考えさせる。シミュレーションとランキングであり、一対一の領域ではロールプレイングも行っている。
具体的な内容を知りたい人は、ぜひ、神奈川大学の講習に参加して味わってみるぺきだと思うのでこれくらいにするが、私はBグループに参加し、弁護士さん(その中には北大ロースクールで私の授業を受けたという弁護士さんも含まれていた)のファシリテートの下で、討論を行った。
まずは、自分だけで多数決で決めて良いもの、だめなもの、どちらかというと良いもの、だめなもの、どちらとも言い難いものに順位をつける。例えば、「文化祭の演劇で、戦争をテーマとした演目を上演してはいけないこと」という項目があり、これを多数決で決めて良いとすれば、やりたいという人の自由を多数派の意思で押さえつけることになる。だからだめという感じになるが、「戦争」だからそうなのか、それとも文化祭にはなじまないようなテーマ、あるいは子供には悪影響を与えるようなテーマであればどうかなど、考えていくと、必ずしも絶対ダメとはならない(こともある)。これを教員が考えるので、多数決で決めてよいかどうかという問題が自分の頭の中で「教師が決めてよいかどうか」という形に転換されて考えていたりする。
自分だけの結論が出揃ったら、ファシリテーターがグループの各自の意見を出させて、それをグループの意見にまとめ上げていく。その過程では、結論に至る理由のところで上記のような様々な思い、派生した考えなどが明らかになり、それをファシリテーターが巧みに気付かせて、修正したり対立した意見を突き合わせて再考を促したりして、次第に結論に持っていく。
この結論にまとめ上げる技術・話術は、さすがは弁護士であり、紛争について一定の和解をまとめ上げたりする経験がものをいっていた。私のグループを担当した弁護士さんは、優れた調停者の技術を持っていた。
このグループワークの経験を携えて、今度はホームグループと称する6つのグループに再編成される。各ホームグループには、A〜Dの各アクティビティグループに参加していた人が一人ないし二人含まれており、アクティビティグループAに属していた人がホームグループでAのアクティビティを行うときのファシリテーターとなり、同じことをやる。Bのアクティビティをやるときは、私ともう一人の先生がファシリテーターとなった。
弁護士がファシリテーターとなったときには意見がまとめ上げられたり、予定時間内に最終結論まで達したりしていたところが、各参加者のファシリテーターの下ではうまく行かないこともあるが、逆に参加者が一定の経験を済ませたことで口がなめらかになり、議論が進展しやすくなったりして、そしてまた先生たちなので基本的に大人であり、アクティビティの目的に沿った結論形成に動く性質もある。
各ホームグループがA〜Dの4つのテーマを一時間づつかけてワークし、その後に担当弁護士が各ホームグループの結果を講評し、コメントをしていく。
その後、A〜Dのアクティビティグループに戻って、ファシリテーターとしての経験を中心に、振り返りを行う。そこで各ホームグループでのファシリテーター経験のシェアを行う。
この講習は、法律家ではない教員に法教育そのものを行うこともあるが、基本的には教員としてそれぞれの学校での法教育やアクティビティを実践できるようにするということが目的となっているので、その意味では、メタレベルの講習となっていて、講習設計者の苦労が忍ばれるところであった。
次は、私がこの経験を法教育ならぬ法学教育に、授業とゼミという枠組みの中で同意かすかを考える番である。
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