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2019/07/14

退職代行サービスがADRか?(追記あり)

昨日の仲裁ADR法学会で聞いて、確かめてみたのだが、今年の5月10日に、なんと、退職代行サービスが認証ADRとして認証されていた!

かいけつサポートのページ

 

非弁の問題を回避するために、手続実施者は弁護士に限っている模様なのだが、そもそも退職代行サービスがADRなのだろうか?

 

ADR法は、民間紛争解決手続として、次のような定義をおいている。

民間事業者が、紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について、紛争の当事者双方からの依頼を受け、当該紛争の当事者との間の契約に基づき、和解の仲介を行う裁判外紛争解決手続をいう。

退職代行サービスというのは、退職したい人が退職の意思を使用者に伝え、退職に伴う諸々の手続を代行してもらうものであり、その間に退職したいという意思と退職を認めないという意思との食い違いはあるので、紛争がないわけではないが、その紛争は果たして第三者が介入して和解の仲介を行うべき紛争なのか、大いに疑問である。

退職代行サービスそれ自体を弁護士しか行えないものか、それとも他の士業、あるいは一般人でもできないのかは疑問の余地がある。

単に気が弱くて退職を言い出せない人に代わって、退職の意思を伝えてあげるだけであれば、そこには必ずしも紛争はなく、弁護士でなくてもできるであろう。

しかし退職の可否を巡る紛争があって、退職の意思表示を代わって行うのであれば、それは紛争状態にある当事者の意思表示を代理することであって、狭く解釈しても弁護士の独占業務だと考えられる(認定司法書士は別論とする)。

その場合に、退職希望の従業員と使用者との間に中立的な第三者が立って交渉するというのは、イメージが湧きにくい。未払い賃金や退職金があって、その額や支払い期などをめぐって紛争があるというのであれば、交渉の余地もあろうが、退職するだけなら一方的な意思表示であり、合意すら必要はない。一定の予告期間は必要となるものの、郵便でも意思表示は可能である。退職後の引き継ぎとか私物の受け取りとかは、単なる事実行為にすぎない。

ちなみに退職代行サービスを行っている弁護士さんは、ググればすぐでてくる。例えば川越の弁護士さんである。URLからして退職代行サービスに特化している模様だ。この弁護士さんのやっていることは、弁護士資格をもって代理行為を行うのであるから、その限りでは適法である。しかし、それを民間事業者が主体となって、弁護士にやらせたらどうであろうか?

退職代行サービスについて取扱分野として認証ADR事業者となったのは、法律とは無縁の民間会社であり、そのウェブサイトを見ても、現時点では退職代行に関する表記は全く無い。かいけつサポートの文字すらない。今後は違うのかもしれないが。で、退職代行サービスが単なる弁護士さんの代理行為であるとすると、形式的にADRの手続実施者としてその仕事を請け負うとしても、有償であれば、非弁提携の疑いが拭えない。

認証ADRと弁護士法72条との関係は、今でも未解決と言うか有耶無耶なままになって不問状態となっているが、ADR認証はあらゆる弁護士法違反への免罪符となるわけではない。非弁業者が紛争に介入し、提携する弁護士に報酬を与えて、事実上一方当事者の代理をさせるということを認証ADRの名の下に認めていけば、弁護士法27条の非弁提携禁止規定の潜脱を許すこととなり、相当ではない。

単なる代理行為なのか、それとも和解の仲介なのかを分けるメルクマールは微妙だが、少なくともADRとしては、例えば使用者が手続に応諾しないというときに、退職の意思表示を送りつけて雇用契約解消の効果を発生させることはできないであろうし、それを申請費用徴収の根拠とすることもできないであろう。

 

(追記)

その後、円満退職.comなるサイトを発見した。これが上記のADR認証を受けたサービスのようである。

かなりツッコミどころ満載なサイトである。

まず、さんざん退職できますと書いておきながら、最後には合意仲介だけで合意を保証しないと書いてある。これは打ち消しの効果がなく、優良誤認の疑いがある。

次に100%返金保証としているが、後払い可能ともある。先にクレジットなどで払った場合でも、後でどういう場合に返金になるのであろうか?

そもそも特定商取引法に基づく表記には、キャンセル不可と書いてある。100%返金保証とはいよいよよくわからない。ちなみに退職は同ページのよくある質問にもあるように、労働者の権利であり、単独行為なのだから、退職ができないということはあり得ない。100%返金保証という表記も、優良誤認となるであろうか?

で、キャンセル不可と書いてある部分は、ADR認証のガイドラインにも違反している可能性がある。

民間紛争解決手続の実施を依頼する契約は,委任契約,準委任契約又はこれらの契約類似の契約であって,当事者は原則いつでも解除することができるから(民法(明治29年法律第89号)第651条参照),その解除を制限するような「要件及び方式」を定めることは,原則としてできない。

例外的にキャンセル制限ができるものとしては、相手方の同意を要するものとすることに尽きるので、キャンセルの一律不可はそもそも認証できないはずだ。

さらには、利用規約に、お約束の条項、事業者の全部免責条項が堂々と書かれていて、これは消費者契約法に反して無効である。

そして、何よりも、退職代行サービスは違法である可能性があるとしつつ、法務省の認証を取得したから合法という趣旨の表示があるが、ADR認証は違法なものを合法化する効果はないのである。退職代行サービスは、上記の通り、弁護士がやるのであれば全く合法で、通常の代理行為に過ぎない。これをADRの皮をかぶせて、弁護士でない事業者が弁護士にやらせて報酬を取得するというのは、ADRを仮装した非弁提携行為であろうというのが上記の趣旨だ。もしそうではなくて、従業員と使用者との間に立って中立公平に和解をまとめるADR行為をしているのであれば、逆に、それは認証を取得していなくとも合法なのである。

そういうわけで、法務省の認証を取得したから合法という宣伝文句は、いずれに転んでも不当な優良誤認行為の疑いが濃厚である。

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