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2019/06/09

LSの簡単な経過

ロースクールを中核とする法曹養成について、授業で語ったこと。

司法制度改革の以前より

司法試験合格者の高齢化で検察官のリクルートがうまくいかず、財界からも質の高い法曹が大量に必要だという声もあり、法曹人口の増加の方に舵を切ったこと、丙案を経て、法曹一元に近づくには法曹人口増大が必要だとか、陪審参審の導入も合わせてやるとか、二割司法では情けなく、社会にあまねく法の支配が及ぶようにと言われて、絶対反対だった日弁連も賛成に転じて、ただ司法試験合格者の増加では質が高まらないから大学院レベルの教育機関が必要だということになった。

これが司法制度改革審議会意見書で大学院レベルにロースクールが位置づけられた経緯。

具体的な制度設計としても、質の高い法曹のためには例えば医者とか建築家とかにたくさん参入してもらわなければならず、その他法律専攻以外の高等教育を受けた人たちがロースクールで法律を学んで法律家になってほしいとの理想から、法律の試験を課さない入試での未修者コースが原則で、法学部出身者には別に法律科目試験を課して、2年に短縮する措置をとった。

しかし、この未修者コース中心主義はすぐに破綻し、早稲田が一番未修者中心の理念に忠実だったが、変わり身も早かった。

 

司法試験の合格率は初年度の既習者だけの時に46%を記録したが、未修者には一年で既習者に肩を並べ、3年で司法試験に合格するという設計に無理がありすぎて、合格率は低迷、三振者も続出、社会人はリスクを恐れて参入をあきらめというスパイラルに陥った。

この時点ではロースクールの教育力が司法試験に合格するだけではない、より質の高い法曹を育てるという当初の目論見どころか、司法試験に合格するレベルにすら到達させられない体たらくであったことが問題だった。

しかしその後、1000人以上の合格者が毎年修習を終えるようになると、そのOJTを担う法律事務所のキャパを越え、軒弁や即独・宅弁という現象が現れ、就職できても給料が下がって条件が悪くなり、弁護士会費やローン返済に追われる若手も目立つようになり、即独の人たちは実務のお作法を学ぶ場もないまま現場に放り出され、ロースクール世代は出来が悪いなどという不当な評価にさらされた。

こうした窮状が法科大学院の志願者をさらに減らしたことは無論だが、そこに予備試験の追い討ちが重なった。初年度の予備試験合格者は1人しか本試験に落ちないという驚異の合格率で、これは次第に予備試験合格者が増えた現在でも、流石に全員合格はないが、あらゆるロースクールよりも司法試験合格率では水を開けている。こうなると法律事務所の就職という点でも予備試験合格者が優遇されるし、そのことがさらに法科大学院の評判を下げ、ロースクールの撤退が撤退を呼ぶ悪循環を呼んだ。

その間、文科がやったことは悪あがきでしかなく、受験指導はまかりならんというのはそのままに、なぜか司法試験合格率と入試倍率による縛りでランクをつけて補助金に差をつけ、とにかくロースクールの数を減らすことだけができることだと思っていた模様である。

もちろんロースクールの教育研究がダメなことばかりではなく、授業では言わなかったが、法曹倫理が研究対象となったこととか、臨床系の法実務教育とか、民訴でも刑訴でも実務家と共同での授業の設計運営は色々と学生の関心と理解とを喚起する工夫を生み出した。

しかし、いかんせん、そうした教育方法の進化は一部にとどまったようだし、全体の圧力にはかなわず、さらに当初の理想である質の高い法曹養成と言うのは、特に展開先端科目を追求するのは、司法試験合格者にこそ有用で、トップ100人クラスには適合しても一般化するのは無理があった。

さて、現在の改革方向である法曹コース(3+2)と在学中受験は、法科大学院の打開策になるかと言うと、あまりに対症療法的で、これで法科大学院の復活とはならないだろうと思う。
すでに志願者は下げ止まっており、現在の縮小したパイを維持することはできるかもしれないが、それ以上のものになるかどうかは疑わしい。

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