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2019/05/03

Book:裁判官が答える裁判のギモン

今年読んだ21冊目は、日本裁判官ネットワークの手になるブックレット、裁判官が答える 裁判のギモン (岩波ブックレット)

 

浅見判事よりお送りいただき、またそれより先に自分でもアマゾンで注文していた。

中身は、まさしく裁判に関する素朴なギモンに裁判官が答えるQ&A形式で、これまで何度か企画した裁判官と学生との対話の場面を彷彿とさせるものである。

 

例えばQ2

「悪いことをした人に、なぜ黙秘をする権利や国が弁護士をつける制度があるのですか。無罪の可能性がある人ならともかく」という質問、内心では多くの日本人が抱いている疑問ではなかろうか? 今はなき私の母親も、そんなようなことを言っていて、説明しても「変な制度」という一言であった。

 

しかし、母親には通じなかった説明ではあるが、「悪いことをした人」かどうか、「無罪の可能性がある人」かどうかを決めるのが正に刑事裁判なのであり、その刑事裁判では法律に詳しく裁判手続にも明るい味方がいなければ、本来認められてしかるべき言い分も言うことが難しいというのが現実なのであるから、弁護人を付ける制度は必須なのである。

現在は取調べというプロセスの現場で上記のような味方を付けることが許されず、そのことが冤罪の温床となっていることに思いを致すべきである。

これに対して黙秘権は、結局自白の強要が虚偽自白を発生させ冤罪の主たる要因の一つになってきたという歴史的経緯によるものである。やましいことをしていないのなら喋れるはずだという理屈を認めてしまうと、喋らないときはやましいことをしているに違いないという推論が可能となり、結局、自白の強要が許されるという話になってしまう。

 

ちなみに民事訴訟には黙秘権はない。というか被告人という存在がいないのであるから、比較可能ではないのだが、当事者は、相手方の主張に対してYesかNoか知らないかを答えなければならず、答えないと相手の言い分を認めたものと扱われてしまうのだ。

 

このほか、本書には、岡口基一裁判官の分限裁判事件も、裁判官はSNSを使ってよいのかというギモンに対する回答の中で取り上げられている。もっとも分限裁判の決定に対する直接的な評価は避けていて、補足意見における萎縮への懸念や、市民的自由と司法への信頼確保の両立がとても難しいという指摘などで間接的に、私にはネガティブな立場を示しているように思えたところである。

このあたりは、憲法記念日に読んで良かったと思えたところだ。

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