Symposium:子の最善の利益保護とADR(家事調停)のあり方
昨年の仲裁ADR法学会で聴講したシンポジウムのスクリプトが、学会誌「仲裁とADR」14号に掲載された。
その時の記事が「子の最善の利益保護とADR(家事調停)のあり方」で、それを改めて再確認することができる。
子どもの権利条約が保障する子どもの意見表明権を、日本の法実務がどのように実現しているか、その主たる役割を担う家事調停の調査官と子ども手続代理人とがそれぞれの仕事を語っているところが、改めて貴重である。
そして、その後の民事執行法改正により一般的にも成文化された子どもの引渡しの強制執行、執行の場面になればもはや子どもの意思が聞かれることはないかのように思われるが、最高裁の決定で子が拒んでいる場合に間接強制もできないとしたものが現れ、そして改正法の規定でも以下のような規定が置かれていることに注目すべきだ。
第百七十六条 執行裁判所及び執行官は、第百七十四条第一項第一号に掲げる方法による子の引渡しの強制執行の手続において子の引渡しを実現するに当たつては、子の年齢及び発達の程度その他の事情を踏まえ、できる限り、当該強制執行が子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮しなければならない。
174条1項1号の方法とは直接的な執行、すなわち執行官が威力を用いつつ、子を債務者から引き離して債権者又はその代理人に引き渡すことをいう。
この段階で、さらに子の年齢等の状況を踏まえて有害な影響を及ぼすかどうかを執行機関が判断するというのであるから、これ自体、判定機関と執行機関の分離に対する重大な例外の端緒となりうるもので、同時存在の原則撤廃に対する代償として提案されたものである。
債権者サイドからは反対が多かったが、しかし、子の引渡しという強制執行は、物の引渡しとか金銭債権の執行とかと異なり、日々変わりうる子供と親との関係や子ども自身の精神状態、環境、健康などを、執行の局面になったからと言って無視していいということにはならないのだという当たり前の認識が、この条文には込められているように思う。
だとすると、これを具体的に保障する能力を担うべく、調査官の関与や子ども手続代理人の関与が必要なところである。
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