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2019/03/03

Book:裁判官は劣化しているのか #岡口基一

今年読んだ13冊目は、裁判官は劣化しているのか、話題の #白ブリーフ判事 岡口基一判事による、最高裁分限裁判以後の第一冊目である。

昨日久しぶりに新宿に行くことがあったので、紀伊国屋で買うことができた。

なにしろ、成城学園駅上の三省堂書店には在庫を入れていないというし、品川駅ナカの書店にもなかった。アマゾンでポチれば早いと思いつつ、昨日まで手に入らなかったが、買ってからは小一時間でスイスイと読める本であった。

内容は、ネタバレではあるが、岡口判事年来の主張でもあるので書いてしまってもよいだろう。詳しくはぜひ現物を読んでほしいが、岡口さんが「劣化」と呼ぶのは、新様式判決の普及と司法修習期間の短縮により要件事実教育が(ほとんど)行われなくなり、また飲みニケーションの習慣が社会全体と同様裁判所内でも失われた結果、口頭による智の伝承が行われなくなってしまったこと、加えて裁判所が裁判官懇話会の差別的取り扱いに象徴される「出る杭を打つ」的な対応を続けてきたことで司法の本質を自分の頭で考えるという姿勢が裁判所関係者から奪われてきたことによる、裁判官の法律構成把握能力や判決書起案能力の低下である。

岡口さんについては、本書でも登場する要件事実マニュアルの手作り版を頂いたときから注目している(とはいえまだお会いしたことはないのだが)し、今どこの裁判所にいるのかもブログやSNS等からなんとなく知っていたが、司法試験受験生時代とか1人支部長時代とかの経験は全く知らなかったので、それがどのように今日の糧となっているかを知ることができて、大変興味深いものがあった。
実際、多くの司法試験受験生は、かつてはかもしれないが、自分で法律試験科目に関するレジュメやノートを作成し、いわゆる基本書をベースにしたまとめを作り上げていた。その発展形が岡口さんの要件事実マニュアルや民事訴訟マニュアルなのかもしれない。もう一つの発展形は、予備校のテキスト、それも伊藤塾の試験対策シリーズであろうと思われる。

それはともかく、岡口さんは、上記のような智の伝承を思う存分受けて、その上で独自の立場を築き上げてきたという強烈な自負が、この本を読むと感じられる。

しかし、岡口さん自身がもう一つの劣化としてやり玉に挙げている司法研修所の要件事実「理論」の追究と、その成れの果てとも言うべきハマキョウレックス最高裁判決(最判平成30年6月1日)の以下の判示部分も、裁判官集団の中で「伝承されてきた」要件事実理論そのものではないかということに思いが至る。

両者の労働条件の相違が不合理であるか否かの判断は規範的評価を伴うものであるから,当該相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については当該相違が同条に違反することを主張する者が,当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については当該相違が同条に違反することを争う者が,それぞれ主張立証責任を負うものと解される。

司法研修所の要件事実「理論」には、この一般条項や評価規範に対する整理の仕方(これは実を言えば一般条項の主要事実をどう捉えるかという問題そのものである)に限らず、その前からの法律要件と具体的事実のいずれのレベルで要件事実を理解するかという問題、債務不履行に基づく損害賠償請求権の要件事実に債務不履行の事実が不要とされる問題など、基本的なところに無理のある割り切りがされている。そうした割り切りを前提に、裁判規範としての民法というように純化発展させようとする動きとか、司法研修所教官室の公式見解とは付かず離れずの「裁判官理論」とでも言うべきものが様々に発展してきたということができるが、その中には傾聴に値するものもあれば、「とてもついていけませんね」的なものもあるわけである。

岡口さんがしばしば智の伝承の一例のように挙げる滝沢裁判官の「証言」と「供述」の区別でも、理論的には必然でない。裁判官の智の伝承が、その正当性のあるものなのか、それとも独りよがりなこだわりなのか、理想的には伝承過程で鍛えられて自ずと正しいものが生き残る適者生存説的な過程があるであろうが、それには限界があるであろう。その典型例を、司法研修所教官室の要件事実「理論」に、そしてハマキョウレックス最高裁判決に見るような思いがする。

そうなると、岡口さんのノスタルジックな思いと劣化批判の中には、裁判官社会の中にどっぷり使っている限界があるようにも思え、唐突ではあるが、法曹一元がやっぱり必要なのではないかとおもうのだ。

以上のことはともかくとして、岡口さんのこれまでのインターネットでの情報発信活動、ツイート、FB、その全てをひっくるめても、裁判官弾劾法の罷免要件に該当するとは到底言い難い

一 職務上の義務に著しく違反し、又は職務を甚だしく怠つたとき。

二 その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき。

分限裁判における懲戒事由についても、本来であれば岡口さんを処分対象とすべきとは考えられないところであったが、まだ裁判所の内部統制のレベルにとどまっていたので、従前の最高裁判所事務総局体制内の話であった。
しかし、この件で岡口さんを弾劾裁判にかけるのは、これまでの罷免例にある犯罪行為、汚職行為などと著しく性質を異にし、裁判官の言動を理由とする立法府による司法府への介入に途を開くものであり、現行憲法の三権分立のパランスを失わせる恐れがあるものである。
現に慎むべきだ。

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