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2019/01/29

arret:性別変更に手術を必要とする規定の合憲性(追記あり)

まだ報道しかなく、最高裁のサイトにも決定文がアップされていないので確かなことは分からないが、結論は不当だ。(追記:29日に全文公開)

性別変更に「手術必要」は合憲 裁判官2人が「違憲の疑い」指摘 最高裁が初判断

最決平成31年1月23日決定本文PDF

岡山家裁津山支部の決定などによると、臼井さんは体は女性だが心は男性でGIDと診断された。「身体的特徴で性別を判断されるのは納得できない」として、子宮と卵巣を摘出する手術を受けずに2016年に性別変更を申し立てた。同支部は17年に申請を認めず、18年に広島高裁岡山支部も支持。臼井さんが最高裁に特別抗告していた。

小法廷は、規定の趣旨を(1)性別変更後に元の性の生殖機能により子が生まれる混乱の防止(2)生物学的な性別に基づき男女の区別がされてきた中で、急激な変化を避ける配慮――と指摘。「こうした配慮の必要性は社会の変化に応じて変わりうるもので、不断の検討を要するが、現時点では違憲とは言えない」と結論付けた。

 一方、三浦裁判長(検察官出身)と鬼丸かおる裁判官(弁護士出身)は共同補足意見で「近年は学校や企業などでGIDへの取り組みが進められ、国民の意識や社会の受け止め方に変化が生じている」として、規定には違憲の疑いが生じているとの見解を示した。また「性同一性障害者の苦痛は多様性を包容すべき社会の側の問題でもある」とも述べた。

記事の限りでは、法廷意見としてもかなり慎重な判断であり、その意味では問題の深刻さを最高裁が正面から受け止めたという評価はできよう。
それでも、当事者の自己認識と法的性別とのずれが問題であって、それに基づく「混乱」を当事者の側にしわ寄せしてしまう立法は正当化できるのか、疑問だ。法が前提としてきた性別秩序にはおさまらない存在を認めたのが性同一性障害特例法であるのだから、そこで認められた人たちの幸福追求権を踏みにじるような規定を混乱防止とか急激な変化を避けるという理由で合憲とするのは、憲法13条の下記の文言に照らしても期待はずれと言わざるを得ない。

すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

最大の尊重をすべきである。

(追記)
決定文を実際に読むと、ニュアンスはどちらかというと違憲となりうる可能性を指摘するトーンであり、特に補足意見は次のようにまとめられている。

性同一性障害者の性別に関する苦痛は,性自認の多様性を包容すべき社会の側の問題でもある。その意味で,本件規定に関する問題を含め,性同一性障害者を取り巻く様々な問題について,更に広く理解が深まるとともに,一人ひとりの人格と個性の尊重という観点から各所において適切な対応がされることを望むものである。

まさしく、社会の側の問題であって、適切な対応をする責任が社会の側にあるという点で、上記の記述と一致する思いだ。
しかし、問題は、最高裁判所の行使すべき権限としても「適切な対応をする責任」があるのではないかというところである。
「違憲の疑いが生じている」という曖昧な記述でとどめてしまって、社会の「各所において適切な対応」を望むというのでは、無責任のそしりを免れない。

違憲か合憲か、結論をはっきりさせること、その前提として立法時に慮ったとされる社会的混乱は実際のところどういうものであり、どういう混乱がこの規定で回避されてきたのか、それは性同一性障害に苦しむ個人に救済を制限することを正当化するほど重大な混乱なのか、性別変更後に元の性の機能で子供ができた場合の法的な考え方を整理する中で、あるいは手術を強制しない他国にそうした事例があるかどうか、あるとしてどういう処理をされているのかなどを確認し、最高裁自身として重大な混乱なのかどうかを「判断」すべきであった。
そうした判断が説得力ある理由とともに示されれば、個人の救済をある程度抑制することもやむを得ないという結論を受け入れる可能性があるが、「違憲の疑いがあれども社会がなんとかしてと願う」というような他人事のような文章は、たとえ補足意見だとしても、職責放棄のように思える。

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