article:ゲームにおけるペナルティーの意義と機能について
北大法学論集の最新号に掲載された、刑法学者の小名木明宏先生の「ゲームにおけるペナルティーの意義と機能について : ドイツボードゲームにおけるペナルティーの役割についての考察」という論文が、とても面白い。
ドイツゲーム大賞を受賞した様々なボードゲームのルールとペナルティの仕組みを調査し、そのペナルティの機能と刑法が持つ応報機能、一般予防、特別予防というペナルティの機能との比較検討を行うというものだ。
小名木先生によれば、ボードゲームのペナルティには予防の観点があまり見いだせないというのである。
もっとも、DIXITの語り部(小名木先生は手番プレイヤーと呼ぶ)、つまり一般には親と呼ばれる役割のプレーヤーが、全員に当てられたり、全員に外されたりすれば、得点を得られないというペナルティを受けるというルールについては、一般と特定という区別には落とし込みにくいのだが、ともあれ行動規制を主目的としているという意味で「予防」の機能を果たしていると言えるのではあるまいか?
というよりも、そもそも刑法の刑罰という意味でゲームの様々なペナルティを理解してよいのかという問題もありそうである。小名木先生が指摘するように、一回休み的なペナルティは、まさに刑法的な意味でのペナルティに近いが、多くの場合はプレーヤーの行動に対する制裁としてというよりも、不運である。従って、避けようとしても避けられないのであり、本来刑罰の原理とは相容れない。ここは民事的な関係における競争条件の平準化を目的とした仕組みであり、刑罰的ではない。
これに対して上記のDIXITのペナルティこそは、ゲームを成り立たせるための行動規制であり、これに従わなかった場合の制裁(無得点)が、応報とともに予防機能を果たしていると評価すべきであろう。
なお、小名木先生は刑法的世界を前提に、ペナルティ、すなわち負のサンクションのみを取り出しているが、サンクションには正のそれもあるのであり、すごろくでいえば2つ進むとかもう一度サイコロを振れるというようなコマの機能も、負のサンクションの裏返しの機能を持ちうる。そしてそれがプレイヤーの一定の行動に結び付けられているとすれば、少なくとも行動規制的な原理として機能するのである。
ただ、それって結局ゲームのルールそのものだよね、ということにもなりそうである。
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