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2018/11/02

lawyer:大量懲戒請求に対する提訴

900人提訴へ 大量懲戒請求受けた弁護士 6人に賠償請求

北先生、佐々木先生が大量に懲戒請求を受けた件で、まず6人の懲戒請求者に対する損害賠償請求訴訟提起が報じられている。

この問題は、朝鮮学校への補助金の交付を求める声明を出した全国の弁護士会の幹部らを対象に、去年1年間で13万件もの懲戒請求が出されたもので、ネット上のブログが「声明への賛同は犯罪行為だ」などと懲戒請求を呼びかけたことが影響したとみられています。

東京弁護士会に所属する佐々木亮弁護士と北周士弁護士は、弁護士会の声明には一切関わっていませんでしたが、ツイッターで異議を唱える投稿をしたことがきっかけとなり、これまでに960人以上から合わせて4000件余りの懲戒請求を受けたということです。

2人は2日、不当な懲戒請求で業務を妨害されたとして、請求者6人に対し1人当たり66万円の損害賠償を求める訴えを東京地方裁判所に起こしました。

2人はこれまで請求者に謝罪や和解を呼びかけていましたが、和解に応じたのは20人余りで、今後、残りの900人余りの請求者を提訴する方針だということです。

備忘録的に情報を補充しておくと、まず上記の煽ったブログは、余命三年と称するブログである。ググれば普通にアクセスできる。

他方で、提訴した弁護士は、いずれも一部では有名な方々だが、朝鮮学校の声明とは必ずしも関係なさそうである。
北周士弁護士の著書といえば、弁護士事務所経営関係である。

共著者にも多数のFBやTwitterで見かけた、あるいはつながっているお名前がある。

他方、佐々木亮弁護士の著書は以下のようなものがある。

正直言って、傾向的にも似通った二人というわけでもなく、また二人共朝鮮学校への給付の停止に講義する声明とは無縁だと言っているので、まさしくとばっちりという事である。

さて、この先生たちに対する懲戒請求の問題点は2つある。

一つは、先に判決が出た金弁護士のケース(jugement:大量懲戒請求に損害賠償命令)と異なり、全くのとばっちり懲戒請求では、初めから根拠が無いことが明らかであるにもかかわらず敢えて業務妨害の意図を持って、という立論が極めて容易になる。
一つ一つの懲戒請求の内容を確認できるわけではないので、そのそれぞれが上記ブログの影響を受けたものなのかどうか、断定的なことは言えないが、仮にそうであるとしても、懲戒請求者たちには全く擁護の余地はない。
金弁護士のケースをテーマにしたクローズアップ現代ブラスの番組「なぜ起きた?弁護士への大量懲戒請求」で、軽い気持ちで行なったとか、弁護士が怒るとは思わなかったとか、匿名性への安心感があったとか、色々と言い訳を述べているが、まあそれは良い勉強の機会になったと言うしかない話である。

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番組後半で辻准教授がネットの構造による原因分析を行っていて、それはもちろんその通りだと思うが、SNSのある種のタコツボ化というか、同種の意見ばかりを見るようになる構造に関連オススメの仕組みが拍車をかけている状況と、署名捺印して法的手段をとる段階とには大きなギャップがあると言わざるを得ない。

個人的にも、これまで何回かこのブログ等の記事により批判を受け、コメント欄が盛り上がったり、その当時の勤務先大学に抗議や非難の電話を頂いたことはあるが、それは匿名であって、正直言って雑音という扱いしかされてこなかった。要するに迷惑ではあるけれども、それ以上のものではないという扱いである。(でも迷惑だから止めてね。)

これに対して弁護士会への懲戒請求は、正式な法的手続であり、告訴・告発と同じことである。
虚偽の懲戒請求については刑法に下記のような刑事罰も用意されている。

(虚偽告訴等) 第百七十二条 人に刑事又は懲戒の処分を受けさせる目的で、虚偽の告訴、告発その他の申告をした者は、三月以上十年以下の懲役に処する。

今回、民事上の損害賠償を支払わされる羽目になった人々は、和解でも、判決によるものでも、民事でとどまってよかったと安堵すべきであり、感謝すべきでもある。

もう一点、個々の懲戒請求者の問題を離れて、大量懲戒請求による制度破壊という側面も見逃せない。

弁護士会懲戒請求自体は、高度な自治権を有する弁護士に対して、その職業倫理を保持するための重要な装置であり、従来は弁護士会がそうした自覚を持って運用してきたと一応言える。
懲戒制度の運用にあたっては身内びいきだとか処分が軽いとか、批判はたくさんあるし、顧客の金を横領した弁護士が業務停止とかになっているのを見ると、そうした批判にも共感したくなるが、個別の案件を見るとなるほどという理由があるものである。個人的に若干の委員経験から、想像はつく。

そして、弁護士自治を維持するための重要な装置であるだけに、懲戒請求に対しては被請求者となった弁護士に答弁を求め、委員が面会して答弁内容を吟味し、綱紀委員会での報告と審議が一つ一つについてきっちり行われる。

こうした丁寧な手続を、雛形に基づく大量請求は、破壊してしまう。

その悪弊の先鞭をつけたのは、何と言っても、橋下徹・元大阪府知事・元大阪市長である。橋下弁護士自身を被告とする損害賠償請求は、残念ながら最高裁において請求棄却が確定した。→最判平成23年7月15日民集65巻5号2362頁(判決全文PDF
この事件はいわゆる光市母子殺害事件における弁護人の弁護活動に対して、TV番組の中で、被告人の不合理な弁明を弁護人が組み立てたとしか考えられないと橋下弁護士が発言し、「ぜひね,全国の人ね,あの弁護団に対して[E:#x10FC68]し許せないって思うんだったら,一斉に弁護士会に対して懲戒請求かけて[E:#x10FC68]らいたいんですよ」「懲戒請求ってのは誰で[E:#x10FC68]彼で[E:#x10FC68]簡単に弁護士会に行って懲戒請求を立てれ[E:#x10FC6A]すんで,何万何十万っていう形であの21人の弁護士の懲戒請求を立てて[E:#x10FC68]らいたいんですよ」などと呼びかけたのである。そして、この放送日から、弁護人となった弁護士たちにそれぞれ600件超の懲戒申立てが広島県弁護士会に寄せられたというのである。
ただし、懲戒請求に使われた雛形がウェブページに掲載されていたことについて、橋下弁護士は関与していなかったと認定されている。

最高裁判決が橋下弁護士の不法行為責任を認めなかったのは、まず事実認定として懲戒事由がないことを知りながら上記の呼びかけをしたとはいえないという点と、呼びかけ行為がテレビの娯楽性の高いトーク番組の中で出演者間のやり取りの中でされた表現行為であり、懲戒請求の呼びかけは視聴者自身の判断による行動を促すものであること、懲戒請求者の行動は橋下弁護士の呼びかけに共感したということと橋下弁護士の関与しないウェブサイトの雛形に拠ったということ、そして懲戒請求の処理も一括して行われたためあまり大きな弊害はなかったという点が理由である。

この判断には疑問を禁じ得ないが、いずれにしても大量請求は通常の懲戒手続過程を変質させるという弊害があるのである。

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