Book:AIと憲法
今年読んだ23冊目は、山本龍彦先生の編著によるAIと憲法。
これは論文集なので、全体を通じて筋立てがあるわけではないが、いわゆる人工知能(AI)との関係で憲法上問題となる諸問題の概観を行う序章に続いて、プライバシー、自己決定原理、経済秩序(プラットフォーム企業や競争法の問題)、AIと人格、教育制度、民主主義や選挙制度、そして裁判と刑事法が取り上げられている。
憲法的な視点からすると、民主主義や選挙とAI、というかビッグデータ活用やら世論操作的なフェイクニュース等の流通などが最も興味深く、AIに法人格を認めるかどうかという問題は、よくある設定ではあってもあまり現実味のある話ではない。
対して教育制度のAI技術利用は、大学教育の観点からも興味深いとともに考えさせられる内容である。それでなくとも教育内容への外部干渉が半ば公然と行われている現在、AIの活用はそれに拍車をかけることになるやもしれぬ。法学分野でも、テスト勉強とか職業教育とかはどんどんAI活用による標準化と省力化が進んでよいが、学問はそういうものではない。というあたりに理解が得られるか、自身のないところだ。
あと、AIと裁判に関する柳瀬昇教授の章だが、ファンタジックな観測はともかくとして、中に触れられているように、量刑データベースが用いられているところがもっと注目されて良い。
これは良い意味でも注目に値するが、悪い意味でも注目すべきである。
判例データベースが高度化することで、裁判の内容も当事者(弁護士)の請求や主張も、適切な先例を踏まえたものとなり、質の向上が期待できるが、分析から検索、そして出力までのプロセスがブラックボックス化すると、推論の過程が明らかにならないまま結論だけが独り歩きし、それを人間が否定する根拠が無いというだけで受け入れてしまうおそれを禁じ得ない。ロボット裁判官による裁判はおそらく実現しないであろうが、実質的にそれに近い状態が密かに現実化するおそれがある。
しかし、本書では触れられていないが、ADRの文脈ではそれもありである。つまり早期中立的評価をAIが行ったり、交渉の最後の決着点をAI診断に委ねるという利用方法も当事者が望む限りは許される。
そんなことを考えながら、あっという間に最後まで読んでしまった。
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