民訴教材:11年前の確定判決、異例の取り消し…東京高裁
違法な公示送達に基づいて生じた確定判決の効力を否定するというものではあるが、正確な意味がわかりにくい記事である。
東京高裁(中西茂裁判長)が7月、「被告側に裁判が起こされたことを伝えないまま裁判を開いたのは違法」として、2007年8月に確定していた民事訴訟の1審判決を取り消していたことがわかった。1審の裁判所が、被告の住所が判明しているにもかかわらず訴状を郵送せず、提訴されたことを掲示板に貼り出す「公示送達」の手続きを経て審理に入っていたことが問題視された。確定判決が10年以上を経て取り消されるのは異例。
ここだけを読むと、確定判決が取り消されたのだから、再審の訴えが認められたように思える。しかし、その後の記述には、以下のように書かれている。
区役所から取得した女性の住民票(除票)を同支部に提出し、公示送達を申し立てた。除票には女性の転居先の住所が記載されていたが、同支部はこれを見落として男性の申し立てを認め、訴状が提出されたことを示す書面を敷地内の掲示板に貼り出した上で、同年7月に第1回口頭弁論を開いた。女性が出頭しないまま、同支部は男性の請求を認める判決を言い渡し、同年8月に確定した。
しかし、この賠償の請求権(10年)が時効を迎える昨年になっても女性から支払いがなかったため、男性は新たに、時効の中断を求める訴訟を同支部に提起。女性はこの新たな訴訟の訴状を受け取った際、自分が07年にも訴訟を起こされていたことを知ったという。
女性は「知らないところで行われた訴訟は無効」として昨年12月、07年の1審判決の取り消しを求め、東京高裁に控訴を申し立てた。
ということで、再審請求ではなく控訴申立てということである。
これはつまり、07年の判決の公示送達が無効であるから控訴期間がまだ満了しておらず、従ってその判決に対する控訴を申し立てて認められたということのようである。
残された疑問は、男性が二度目に提起した訴訟の帰趨だが、これは一度目の訴訟と同内容なので、一度目の訴訟の控訴申立てとともに、二度目の訴訟を二重起訴に当たるとして本案前の抗弁を提出したのであろう。
二度目の訴訟の中で、一度目の訴訟の確定判決の既判力を否定し、本案審理をするという手もあったように思うが、違法な公示送達ではあっても確定判決の騙取というほど術策を弄した事案ではなかったのかもしれないので、そちらは難しかったのであろうか。
中々、教材としては面白い。
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