cinema:国家主義の誘惑
今年見た映画の19本目は、『国家主義の誘惑 Japon, La Tentation Nationaliste 』
ポレポレ東中野で、上映後の渡辺謙一監督とミカエル・リュッケン(フランス国立東洋言語文化大学教授)、三浦信孝(中央大学名誉教授、日仏会館副理事長)両先生によるトーク・イベント付きであった。
映画の内容は、フランスとドイツの合弁TVチャンネルアルテ用に作られたドキュメンタリー番組で、今の右傾化して国家主義的な価値観を隠さない安倍政権と、その下での特に憲法9条2項は改変して再軍備をしようとする日本社会を、一方では山田宏議員、他方では山本太郎議員、そして沖縄の反基地闘争などを織り交ぜて紹介するものであり、基本言語はフランス語に日本語字幕だが、日本語には字幕がない。
そして現在の政治情勢にスポットが当たり続けているわけではなく、明治維新以来の近代日本の歩みから、富国強兵、一等国になったと思ったけど対等に扱われない時代、アジア主義に基づく解放戦争のつもりがアジアの他民族からは解放されたとは思ってもらえなかったし、満州国では結局傀儡を建てただけで、最後は自殺傾向の破滅的な行動に終わったという歴史を丹念に振り返り、その上での現代である。
アメリカの核・傘の下にいて、特に沖縄などで基地を差し出していること、隣国であるロシア、韓国、中国とはいずれも領土紛争があり、歴史認識や経済的利害対立があること、そんな中で安倍政権は対米追従と再軍備を進めようとしていること、これに対して待ったをかけているのが天皇であること、特に天皇の退位の意向を示したのは安倍政権のもとでの憲法改正の動きを止めることが目的であった、あるいは少なくともそうした効果があったというのである。
さて、日本はこの先どこに行くのか、トーク・イベントでフランス人のミカエル・リュッケン氏は隘路に陥っているといい、アイロニーな状況にもあるという。ひょっとしたら、最初の隘路もアイロニーの意味だったのかもしれないが、行き詰まっている、どの道に進んでも良い未来が見えないということを言っていた。
フランス人にとって、こうした日本の状況はどう映るのかというのがトーク・イベントでの主題だったが、これには三浦信孝先生が、フランス人には理解されないと断じていて、全くそのとおりだと思った。特に憲法9条の平和主義は、アメリカの武力に守られている以上、ただのお題目だという、不都合な真実をフランス人からは言われるし、さらに進むと、本当に守ってもらっていると思うのか、アメリカなんか自分の都合でやっているんで、有事の際に守ってもらえるなんて信じているのかと聞かれるという。これまたそのとおりである。
だから、アメリカとは手を切らなければならないという話になるが、そして沖縄の反基地闘争の人も映画の中でそう言っていたが、その後はじゃあどうするかということになると、結局再軍備か、核武装か、という話にならざるを得ない。現に核武装して、NATOはあれども自国を守っているフランス人からすれば、それは不思議な事ではないということになる。
しかし、憲法9条の平和主義に帰依している立場からすれば、逆にそうは言えないわけである。
あと、今上天皇が退位することにより憲法を守るという象徴天皇の務めを果たされたという見方もトーク・イベントでされており、その無邪気とも言える天皇の政治利用にはどう反応したらよいか困るくらいだ。政治利用は良くないけども、現実に天皇の行為が一定の政治的効果を持つことは否定できない。ここにも憲法的建前と現実との乖離があり、難問である。
ということで、トーク・イベントも含めて非常に面白かった。
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