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2018/05/11

論文紹介:安井英俊・DV事案における面会交流の可否

安井英俊「DV事案における面会交流の可否」福岡大学法学論叢62巻4号1037頁

 この論文は、夫婦間にDVがあるなど、いわゆる高葛藤事例において面会交流を認めるかどうかという問題に関して、いくつかの裁判例紹介と学説を簡潔にまとめたものである。

 主として取り上げられている裁判例は以下の3つ。

東京高決平成27年6月12日判時2266号54頁
東京高決平成25年6月25日家月65巻7号183頁
東京高決平成25年7月3日判タ1393号23頁

Mamabebe


筆者は、現在主流となった感のある面会交流「原則実施論」が、それ自体としては理念として問題がないとしつつ、それがDV事案においても結果的に面会交流を強いられることになっているとの問題意識に基いて、裁判例がどのような要素を取り上げて面会交流の実施の有無、方法の選択を行っているかを分析する。
結論としては、ケースバイケースでありながらも慎重な対応が求められるというものである。

この問題は特に、夫婦間および親子間の関係が千差万別であって、高葛藤かどうかという枠組み自体も曖昧だし、そもそも何をもって高葛藤かという理解も一様ではない。DVの概念自体も、DV防止法が前文で前提にする幅広い定義から保護命令の要件と規定されている定義に至るまで幅広く、モラハラのような事例も含めるとさらに広く多様である。
その中で、親子関係も色々なだけでなく変わりうるものであるから、面会交流の方法の多様さとも相まって、一般抽象論は全く虚しい限りである。

そういうわけで、安井先生のこの論文の結論はありきたりにも見えてしまうのだが、注目すべきは内容よりも中間の分析検討にあるというべきだ。

そして、裁判例の紹介と分析は、この問題に深く関わっている関係者であればともかく、普段接することのない私のような者にとっては、興味深いものであった。

面会交流といっても、週一とか月一に会うというだけではなく、それは直接交流というが、手紙をやり取りするとか、写真を撮って非監護親に送るよう監護親に義務付けるとか、間接交流と呼ばれるものもありうる。
直接交流も、DV事案であるならば元夫婦が直接会わないようにする工夫とか、FPICのような第三者の支援機関の活用とか、審判の過程と結論において十分な考慮と当事者間の協議が求められている。こうした検討を十分していないという理由で原審判を取り消して差し戻したのが東京高決平成25年7月3日判タ1393号23頁である。

そういうわけで私にとっては興味深い内容であったが、裁判例にせよ文献にせよ、網羅的な調査の上で議論をされたら、少し違うものが出てくるのではないかという気がするし、そのような発展を望みたいところではある。

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