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2018/04/29

penal:性犯罪者の治療プログラム

懲役13年で服役中のある受刑者の告白

性犯罪者は再犯率が高いと言われながら、その再犯防止のための施策は必ずしも十分行われようとはしていない。
上記の手記には、R3と呼ばれる治療プログラムを受講した受刑者の体験談と率直な意見が記されている。

治療ブログラムの質・量についても、執筆者は批判的な見解を述べているが、その点はちょっと良く分からない。が、文中での次の一文には「あ~やっぱり」と思わざるを得なかった。

R3で学んだことを通常の所内生活の中で実践しようとすると、刑務所から無効化される風潮

この点が根本的な矛盾のように思える。この手記では、その他にも、以下のような記述がある。

セッションは、受刑者とスタッフが車座になって行います。刑務所では、管理する側の職員と管理される側の受刑者という「縦の関係」が強調されがちですが、R3では、できる限りスタッフと受刑者の垣根を取り払う工夫が施され、対等で協働的な「横の関係」を築くように促されます。

 考えてみれば、仮釈放や懲罰をちらつかせて受刑者を服従させる刑務所の処遇モデルは、暴力や脅迫、賄賂(わいろ)などを用いて他者を性的に支配する性犯罪者の行動原理とどこか似ています。R3は刑務所内で実施されながらも、刑務所がその実効性を体現する支配的な対人関係をリスクとみなし、刑務所的文化に対抗する「向社会的文化」を受刑者に体験させるプログラムなのです。

こうした見方が全く正当だと思うところだが、それで思い出すのは広島の方で発生した囚人逃亡事件である。
社会復帰に向けた塀のない、拘束の緩やかな施設から脱走したということから、そのような塀のない施設は危険だから見直すべきだという方向に議論が進んだように見受けられる。しかし、再犯防止と社会復帰のためにより効果のある処遇が必要であることは否定できない。あらゆる犯罪者を一生閉じ込めておいたり死刑にして最終的に排除したりしない限り、いつかは隣人として向かい入れることになる。だとすれば、再犯防止のために少しでも効果のあることは実践することが不可欠であろう。
塀のない刑務所が社会復帰と再犯防止に必要であるのであれば、必要だという認識だからこそ何箇所もできているのであろうが、それなら何人かそのスキを見て脱走したということがあっても、必要性は減じられない。
治療ブログラムの効果を減殺してしまうような刑務所の態勢があるとすれば、それは修正すべきだ。確かに力と利益誘導で押さえつけるのが囚人管理に最も有効なのかもしれないが、そのようにして処遇され、そのような価値観を身につけた人が社会に出てきた時に、はたして隣人としてやっていけるのかは全く疑問である。

受刑者の人権という観点もまあないわけではないが、それよりも特定予防の観点から、再犯防止のために本気になっていただきたいと思う。

なお、現在の勤務先である成城大学には治療的司法研究センターがある。

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