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2018/04/23

JILIS:ブロッキングに関する緊急シンポを聴いて、民事法的なスキームを考える

昨日は情報法制研究所が実施したブロッキングに関する緊急シンポを傍聴した。
NHKでも報じられ、注目の高いシンポであったが、海賊版サイトを対象としたブロッキングによるアクセス制限を政府が要請(はしていないというのだが、他に言いにくい)したことの是非、特にブロッキングが通信の秘密の侵害に当たり、電気通信事業法の刑罰規定に触れるのではないかという問題に関して緊急避難として違法性が阻却されるとの解釈が政府から示されたことで、これについての当否を論じるというのが趣旨であった。

しかし、パネリストの構成にもよるのかもしれないが、緊急避難の当否そのものに関しては、否定一色であり、これを肯定する論拠としてのは一つも示されていなかった。否定する論拠は嫌というほど示されたが。

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ただ、NTTが政府解釈に従いブロッキングを実施するとの声明を出したとのニュースに接し、そのチャレンジングな姿勢に驚いた。
NTTグループが23日月曜にも傘下ISPに対し独自のブロッキング案を発表・実施か

それはともかく、緊急避難で違法性が阻却されることがないとすれば、立法でということになる。
確かに立法で、通信の秘密の侵害や差別的取扱いの禁止にかかわらず、電気通信事業者が違法なコンテンツを掲載するサイトへのアクセスを遮断することを可能とする立法は可能であろう。

しかし、端的にその種の例外規定を設けたとして、その新たな権限は誰のイニシアティブにより、また誰のコスト負担により、行使されるのであろうか?

例えば、著作権侵害サイトに対して、その差止め等を求めうるのは、本来は著作権者である。だとすると、著作権者がサイトを特定し、これに対するブロッキングをプロバイダに請求するという民事的なスキームが考えられる。この場合、ブロックされるサイトの運営者に対しての手続保障はどうなるのであろうか?

著作権侵害サイトに対するブロッキングという風に、初めから著作権侵害が行われていることが前提にされれば、そのような相手方に争う余地などを認める必要はないということになるが、そのようなスキームを作ったとしても、それを適用するには、まずもって著作権侵害サイトであることが確定されなければならないし、その確定は誰がどのような手続で行うのか、そして著作権侵害サイトであることの確定手続の中でサイト運営者の反論の機会をどうやって確保するのか、それらが問題となる。
この辺りは、侵害情報流通を要件とする発信者情報開示請求と同様となるが、単に訴訟の準備段階である発信者情報開示とは異なり、情報発信についての侵害を伴うのであるから、事前・事後の救済の余地を認める必要がある。

公法刑事法的なスキームで、権利者による請求を必要としないブロッキングは児童ポルノについて行われているのと同様となるが、その場合はさらに、著作権侵害サイトとの認定を誰がどのような手段で行うのかが問題となるし、そもそも著作権という基本的に私的権利であるものの侵害について、権利者が何も言わなくても公法・刑事法的にサンクションを加えてもよいのかという問題も生じる。
シンポジウムでも指摘されていたが、著作権というのは児童ポルノと異なり、権利者が承諾すれば複製しようと公衆送信しようと全く問題はないのであるから、仮にマンガのコピーを公衆送信しているサイトがあったとしても、それが違法だというためには著作権者(等)の承諾を得ていないことが必要条件となる。このことは親告罪かどうかには関わりないことである。

そういうわけで、著作権者が請求をすればISPがブロッキングをするという民事法的なスキームを可能にするために、通信の秘密侵害の除外規定を置くことは、立法として一つの可能性であるし、その権利行使方法としては仮の地位を定める仮処分によることだって十分考えられるところであろう。さらに手続的には、ISPが多数存在するのであるから、それらを全て被告とするのは困難があるので、ISPの団体が代表当事者として授権を受けるという仕組みも、同様に立法することが可能となるだろう。

ただし、そのようなスキームは、例えて言うなら特定のサイトを村八分にするというものなので、対象となるサイトの運営者に対する手続保障は不可欠であり、コンテンツを載せている人のみならず、サーバーのホスティングプロバイダ等も主張立証の機会を保障されるべき存在ということになるだろう。
そしてそれらが海外のあるということになると、結構時間と手間がかかる話になるのは避けがたいのだが。

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