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2018/01/18

A.I.使えばなんでも解決するかのような論調

夢を語るのならいいが、最近はAIといえばもうなんでもできることを前提にして論じる人が目につく。

例えば裁判にAIを導入することが必要だとする「早急にAI活用を!技術裁判に苦しむ裁判官」という記事など、その典型だ。

この記事では、建築関係の訴訟(これはいわゆる専門訴訟として、医療事故と並んで特別扱いされている)について、技術に素人の裁判官が、しかも常時200件以上の事件を抱えつつ、多様な専門分野の多様な法令をすべて駆使した裁判を要求されているので、人間では限界が来ていると論じている。しかも公務員たる裁判官には転勤があるので、長期間かかる裁判では当初の審理に誰も携わっていなかった裁判体が判決を下すことにもなる。
こうした現状を解決するには、AIの導入が必要だして、以下のように述べる。

 

この現状を解決する手段は、もはや人工知能(AI)の活用しかないのではないか。AIが、事件内容を把握し、関係する法令を選択し、判例も参考にしつつ、的確に判断をする。裁判官は、もっと高い見地、広い視野で大局的に判断をすることに力を注ぐことができる。

Humoir


いやしかし、AI=人工知能にそんなことができるんだろうか?

「事件内容を把握し」と簡単に言うが、これは当事者間の主張を整理し、争いある部分でも主要な争点かそうでないかを区分けし、場合によっては二次的な主張は引っ込めさせ、その上で本当のことを言っているとは限らない当事者が呼んできた証人の証言を下に争いある部分についての当否を判断するという作業である。
専門的知見を要する争点であれば、その前提としての専門知識や専門的経験則を補充し、当該事件における事実関係についても専門的知見をもって真偽を判断する必要があり、そのための材料としては専門委員や調査官がいれば、その助けを借りられるが、そうでなければ専ら証人や鑑定人の述べることや鑑定書によらなければならない。その鑑定人にも、まず何を聞くべきかは、当事者の意見も聞くが、裁判所が決めなければならない。規定上は、鑑定人を選任して、その意見を聞いてから鑑定事項を定めることもできるが、また鑑定人に審理に立ち会ってもらって証人尋問に質問する機会も設けられるが、それらは調査官や専門委員がいる場合よりさらに少ない。

こうした専門的知見を要する事件にAI(それも想像できる限り最も高度なものだとしても)を導入したとして、何ができるのか?
せいぜい、できの良いデータベース、できの良いワープロであって、多少迅速化するかもしれないし、裁判官の必要な専門知を今より深く広範に収集することができるようになって審理も高度化するかも知れないが、それは多忙な裁判官の代替になることとは全く違う、補助的な道具である。また、専門知識を補充する役に立つと言っても、審理のポイントとなるような専門知については、その専門知の当否を巡って争われる余地があるかも知れず、AIが提供した知識が当然に正しいとの前提で審理をすることは不公平な裁判となる可能性がある。

 例えば、AIが「水俣病の原因はウィルスである」という知見を裁判官に提供して、裁判官がそれを元に審理すれば、不当なことは明らかであろう。その不当性を是正するには、AIが裁判官にそのような知見を提供していることを当事者に開示して、争う機会を与えるしかない。法律家にとってはおなじみの私知利用禁止の一場面なのである。

これに比べると、関係する法令や判例を参考にすることは、AI、というかまあコンピュータによる検索システムが役に立つところだ。ただし、判例といっても、そんなかっちりとしたものがあれば当事者だって当然主張する。当事者が主張せず、裁判所も自分では知らないような判例というものがあったとして、その「判例」が当該事件にどう用いられるか、従うべきか否か、射程が及ぶのかどうか、それは極めて高度な解釈であって、一義的な正解はない。ということはAIが何らかの判断を出したとしても、それでは終わらず、結局人間が判例の解釈と依拠するかどうかの判断をしなければならないし、それ自体が法解釈・適用なのである。

そういうわけで、裁判官の代わりにAIが「的確に判断」するということは原理的にありえない。
おそらくは企業の新人採用とか人事評価などで用いられているAIの機能が想定されているのであろうが、それはそれで問題があるし、まして裁判に使おうというのは基本的に夢物語である。

しかしだからといって法的紛争の処理手続にAIが全く使えないかというとそうでもない。
できの良いデータベースとしては使えそうだし、何よりも、将来的に「判断」に使えるかどうか、実証的に研究する必要はある。

とりあえず、裁判に代替する紛争解決の場面で、サイコロで決めるよりはましな手段として、AIによる裁定プロセスを実証実験してみてはどうであろうか? これはこれで興味深いし、両当事者の合意の上であれば、多少のブラックボックス化も許容できるし、必要であればAIの判断過程を追検証することも組み込んだ(いわば上訴審)裁定手続を設けてもよい。
コートTVみたいに、裁定結果を主宰者が出捐するということで当事者の合意を取り付けるという手もある。
あるいは、弁護士会辺りが、その仲裁センターの一部門として実証実験をやってみると面白いと思うのだが。

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