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2017/12/20

consumer:集団的消費者被害回復制度に期待される事例から浮かび上がる課題

消費者庁は、株式会社e-chanceに対し、「レニュマックス」と称する自動車ボディ等の傷補修剤に関するテレビコマーシャルが「塗布して乾かすだけで容易に当該傷を判別できなくなる程度に消すことができるものであるかのように示す表示」だとして、措置命令を下した。

その命令は以下の三点。

ア 前記(2)アの表示は、対象商品の内容について、一般消費者に対し、実際のものよりも著しく優良であると示すものであり、景品表示法に違反するものである旨を一般消費者に周知徹底すること。 イ 再発防止策を講じて、これを役員及び従業員に周知徹底すること。 ウ 今後、表示の裏付けとなる合理的な根拠をあらかじめ有することなく、同様の表示を行わないこと。

ところで、テレビコマーシャルが「塗布して乾かすだけで容易に当該傷を判別できなくなる程度に消すことができるものであるかのように示す表示」であったとすると、これは同時に消費者契約法の取消事由にもなりそうである。

第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認


この重要事項とは、「物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの質、用途その他の内容であって、消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきもの」と規定されており、まさしく車のキズがレニュマックスを「塗布して乾かすだけで容易に当該傷を判別できなくなる程度に消すことができる」というのは、この物品の質に当たり、購入判断に通常影響を及ぼす。

ということで上記テレビコマーシャルを見て購入した人たちは、取消権を行使して購入代金を取り返すことができそうである。

ただし、テレビコマーシャルが流されていたのは、処分の認定によれば「平成28年3月19日から平成29年4月23日までの間」ということなので、取消権行使の期間制限1年が経過している消費者が多いというのがネックである。商品の品質が劣悪であることを知ったのは、買って使ってみてであろうから。

また、当該商品は、Amazonによれば、3300円ということなので、製品としては結構高いが、法的手段を取るには安すぎる。

そこで期待されるのが、特定適格消費者団体による集団的消費者被害回復裁判手続だが、上記の時効の壁は同様にかかってくる。

仮に多数の消費者が既に取消権を行使して返金を求めているのだとしても、第二段階のコストを1人ひとりに3300円の回収金額の中で負担させるというのは難しそうだ。
テレビコマーシャルによってまとめ買いをするのが通常ということであれば、話は別だが、それでも10本セットでも33000円、そして定価では売らないだろう。1人の売購入金額が2万円だったとすると、それでもコスト負担に耐えられるかどうかは疑問である。

ともあれ、こうした少額多数の消費者被害を回復できるようにするというのが、消費者裁判手続特例法の立法趣旨であったことは異論がないので、そこからいくつかの課題が出てくる。

(1) 取消権行使の時効期間が短すぎる点。
 特に消費者庁などが行政処分を下すことにより、不実告知が判明するような場合には、当該行政処分の時から「追認可能」、従って取消権の行使も可能となるとして、起算点を処分時と解すべきではないか。
景表法に基づく処分時が消費者契約法の取消権の起算点となることにいささか問題を感じないでもないが。

(2) 第1段階から既に多数の対象消費者の特定が必要な点。
 現在の建て付けでは、第1段階の対象消費者の多数性はパイオネットなどの情報により立証することとされ、個々の消費者の特定は不要と考えられている。しかし、取消権行使が行われなければ時効になってしまうとすると、特定適格消費者団体は個々の対象消費者に権利行使を促す必要がある。
ちなみに消費者裁判手続特例法38条は、時効の中断に関して共通義務確認の訴えの提起時に裁判上の請求があったものとしているが、これは対象債権それ自体の時効に関してであり、取消権の行使期間にはかからないと考えられる。
共通義務確認訴訟の中で情報開示を求めるとしても、その根拠となりうるのは提訴前後の当事者照会、求釈明、証拠収集処分などであろうか。任意に応じなければ強制手段はない。

(3) 第二段階のコスト負担
 第二段階のコストを消費者から回収するという現在のスキームは、そもそも無理が大きすぎる。少額多数被害の回復には全く適合していない。
 仮にアメリカのように懲罰賠償がありうるのであれば、少額多数被害でもコストは回収できるが、日本ではまず採用できないところである。
 となれば、第二段階の手続は第一段階の共通義務確認判決の執行過程と位置づけて、第二段階でかかる費用はすべて債務者が負担すべき執行費用と解するべきである。
 そうすれば、団体のコスト負担が壁となることは少なくなるし、上記の立法趣旨にかなうのである。

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