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2017/10/21

court: 最高裁裁判官の選任過程がブラックボックスである一例

憲法は、最高裁裁判官の選任権者を明確に定めている。

第6条2項 天皇は、内閣の指名に基いて、最高裁判所の長たる裁判官を任命する。

第79条 最高裁判所は、その長たる裁判官及び法律の定める員数のその他の裁判官でこれを構成し、その長たる裁判官以外の裁判官は、内閣でこれを任命する。

基本的に内閣が、長官も指名し、その他の裁判官も任命するわけだ。

そこで、ある裁判官の選任の理由をマスメディアが調べたいという場合、本来は内閣に聞くのが筋である。教えてくれるかどうかは別だが。

しかし、一般的には、最高裁に聞くということもあながち間違ってはいない。何と言っても当事者なのだから。

ということで、今話題の木澤裁判官の選任過程を日刊ゲンダイが調べようとした。すると・・・
Humoir


最高裁に問い合わせたところ、「最高裁判事は裁判所法第39条によって内閣が任命することになっています。詳しい経緯は分かりません」(報道係)とのこと。そこで内閣府に電話すると「最高裁判事は総理大臣と国務大臣によって閣議決定されます。(木澤氏の名前が出た経緯は)最高裁がご存じかと……」(総務官室)と一種のたらい回し状態。何だかよく分からない。

実のところ、木澤裁判官のように弁護士出身の最高裁判事は、日弁連が推薦リストを出し、そこから最高裁長官が選んだ者を首相に推薦し、内閣が任命するというのが慣例化している(大野正男『弁護士から裁判官へ―最高裁判事の生活と意見』67頁)。

最高裁判事の出身母体も、最も多いのが裁判官出身で、次が弁護士出身、そして検察官出身となっており、その他に行政官、外交官、法律学者が少しづつ選ばれている。

これを選ぶのは、憲法上の建前は内閣なのだが、最高裁がリストを作成し、内閣はここから選ぶということになっている。
公式には、勿論内閣に専属する権限なのだが、「最高裁長官は自己の後任人事を含む最高裁裁判官の人事について、首相に意見を述べるのが慣例」(矢口洪一『最高裁判所とともに』97頁)なのである。

しかも、上記の大野元裁判官の本によれば、長官による人選は最高裁の裁判官会議を経たりするものではなく、報告はされてももっぱら長官が決めるということのようであり、そこに事務総局が関与していないはずはないが、実のところは良く分からない。

とりわけ、今回の国民審査にかかる刑法学者の山口厚判事の場合は、法律学者としてであればあまり異論がない人選だが、学者「枠」として考えると岡部喜代子判事が在職中であり、学者出身が二人になるのは異例であった。山口先生は任命される時点では弁護士をされていたので、では弁護士枠かというと、それはそれで日弁連推薦枠ではないので、そちらも説明が難しいということになっている。結局、上記の長官と首相とのブラックボックスの中で選任されたとしか言いようがなく、今後はどうなるのだろうかと興味を引いている。
これに比べると、日弁連推薦に基づいて選ばれた木澤裁判官は、加計学園グループの関係者だったとはいえ、選任過程に怪しいところはなさそうである。

で、こうした過程は、ともするとゴシップやスキャンダルとして噂でしか語られないが、日本国憲法が定める三権分立の基本的な仕組みを構成しているところであり、本当はもっと正面から、具体的な裁判官の人選の過程を明確にしながら、議論ができたほうが良い。というか、できるべきだった。民主党政権のときは、そのチャンスだったと思うが、残念ながらあの時代の首相たちも、その器ではなかったということなのだろう。

ブラックボックス化したのは、やはり戦後の最高裁判所が政治に翻弄され、その過程で人事も政治的に歪められたにも関わらず、それを覆い隠したという歴史があって、オープンにすればどうしても過去の歴史を直視しないとならないからだと思う。一見すると司法の独立が確立されているようにも見えるが、実のところは憲法が予定するチェックアンドバランスをなおざりにして、行政府と司法府とがなれ合い的に住み分けているからこそ、一方では司法消極主義が定着し、他方では本来専権を持つはずの内閣(首相)が最高裁のリストに従うという人事を続けてきたわけである。

ただ、アメリカのように政治任用の人事が議会の厳しいチェックを受けるということがない日本国憲法の下では、内閣(首相)が政治的な意思を存分に発揮して人事を行うことが良いこととは思えないのが、弱いところかもしれない。内閣法制局長官のデタラメな人選とか、NHK会長のでたらめな人選とかを見てきた私達としては、特に安倍内閣が自由に思うままに最高裁判事を選んだらどうなるかと思うと、それよりは馴れ合いで司法消極主義でも内閣が人事権を恣にしないほうが良いとも言えて、難しいところである。

なお、裁判官の経歴等についての詳しい研究は裁判官幹部人事の研究 「経歴的資源」を手がかりとしてという興味深い本がある。

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