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2017/07/15

article:差止請求権の発生要件としての「侵害の危険」に関する判断方法について

北海道大学大学院法学研究科の根本尚徳先生からいただいた論文「差止請求権の発生要件としての『侵害の危険』に関する判断方法についてー基礎的・比較法的考察ー」 『早稲田民法学の現在 (浦川道太郎先生、内田勝一先生、鎌田薫先生 古稀記念論文集)(成文堂・2017)439頁を読んだ。

日本の適格消費者団体がしばしばその壁にぶつかっている違法行為が行われる「おそれ」要件について、ドイツの不正競争防止法8条1項の妨害予防請求権発生要件としての「侵害の危険」に関する解釈論を紹介し、日本法の下での解釈に応用するよう提唱するものである。

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ドイツでは、通説判例が「一度不正競争行為を行った者は、同様の行為をさらに繰り返すものと推認される」という「事実上の推定」が認められており、従って違法行為をやめたからといって将来のおそれがなくなるわけではない。

ただし、この推定を覆す事情も認められており、それは違約罰を請求者に支払うことを約束して同じ違法行為を今後行わない旨の意思を表明したことである。

この意思表明は、請求者との間での違約罰を伴う契約という形で示されるが、一方的な意思表明でも、契約の申込みの拘束力を背景に、推定を覆す事情として認められるという。

このような推定が認められる実質的根拠は、不正競争行為が事業者にとって利益をもたらすからこそ行われたのであり、そのような利益追求の目的と可能性が変わらない以上、また実行するものと推測することが妥当だという点にある。
そしてそのような根拠に基づく推定であるから、それを覆すには、不正競争行為が利益にならないことを担保する必要があり、それが違約罰の約束というわけである。

こうしたドイツ法の考え方を踏まえて根本先生は、日本の消費者契約法や景品表示法などの適格消費者団体による差止請求の要件としての「おそれ」についても、単に事業者が違法行為を再び行わないと宣明しているというだけでは足りず、客観的な障害状況の存在により再び行われることがないことが根拠づけられる必要があると解釈されている。
根本先生によれば、クロレラチラシ事件の事案ではそうした客観的障害状況に関わりなく「おそれがない」と判断したものだが、KC'sがニューファイナンスを訴えた大阪高判平成21年10月23日では、貸金業法改正により同じ行為が行えなくなっている事情があることを根拠とし、またCSOふくおかがLIXILの有料老人ホーム事業に対して訴えた福岡高判平成27年7月28日とその原判決では老人福祉法29条6項の趣旨に反する旧来の条項を用いるとは考え難いと述べた点を注で引用し、こうした根拠が示されて「おそれ」が否定される一群の裁判例を支持される。

日本の適格消費者団体による差止請求の実務にも極めて参考になるものである。

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