privacy:比較法学会での上机先生報告
上机美穂・札幌大学准教授による比較法学会での報告は、「アメリカ不法行為法におけるプライバシー保護とその展開」というタイトルで、実にインフォーマティブな内容であった。
主としてアメリカのプライバシー理論の移り変わりと、特にブランダイス、プロッサー、ソロブのプライバシー概念の類型論を取り上げて、現代の日本社会におけるプライバシーとして問題化されている事例を整理し、日本独自の類型論を提唱しようとするもの。
独自の類型論の成否はまだわからないものの、プロッサー時代のプライバシーをめぐる問題状況がネット時代に適合的でないこと、ネット時代の問題をどのように類型的に整理できるかが如実に示された。
特に、ソロブの類型からみる我が国の判例の分類は極めて示唆的であった。
(1)情報収集面のプライバシー問題は、盗聴や盗撮、あるいは監視が問題となる。日本では、2017年のGPS端末による位置情報取得捜査が個人のプライバシーに関わる問題であることを明確にした最決平成29年3月15日裁時1672号1頁が取り上げられ、盗聴器の設置を平穏な私生活の侵害とした東京高判昭和56年2月23日判時999号59頁も取り上げられた。
(2)情報処理面のプライバシー問題は、情報の集約や同一性特定、非セキュリティ情報、二次利用、排除というキーワードが並べられているが、断片的な情報の集約やその加工が問題視される。アメリカの判例では1989年の公開された逮捕記録の作成がプライバシー侵害を構成するという例があり、これに分類される日本の裁判例としては京都地判平成29年4月25日のネットの電話帳事件が取り上げられる。
(3)情報拡散については、守秘義務関係破壊、開示、暴露、アクセス可能性の増大、強迫、盗用、歪曲といった問題につながる。
ここでは守秘義務違反ないし破壊、無断開示に関わる問題事例として早稲田大学の江沢民講演会名簿の提出事件(最判平成15年9月12日)が挙げられていた。
(4)は侵襲という類型で、物理的な侵入のみならず意思決定への公権力の介入もここでの問題とされる。
上机先生は自衛隊合祀事件を引き合いにして、宗教上のプライバシーを認め、精神的な領域への侵入、従って精神的な領域の平穏をプライバシー侵害とする点を日本独自のプライバシー概念とする。この類型は実は多数存在すると思われるし、性的自己決定やセクシャリティ問題もここに属するとの指摘がある。
私の主たる関心は、民事手続における情報の利活用と保護と言うものなのだが、その観点から言っても、プライバシーの捉え方や整理、現代的なプライバシー状況の変化などが改めて示され、とても参考になったのである。
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