Book:裁判の非情と人情
今年読んだ29冊目は原田國男元判事の裁判の非情と人情 (岩波新書)
刑事裁判官を約40年間されていた著者のエッセイ集である。
裁判の話が中心的ではあるが、一般誌を意識して肩のこらない内容にされたというだけあって、難しい話題でも読みやすくわかり易い。ただ、時々著者自身の言葉なのか第三者の言葉なのかがわからなくなりそうなところもあり、肩のこらない書き方も大変であろうと思ってしまう。
裁判所というところは、真摯な専門家がいるところであるし、一人一人と知り合ってみれば尊敬できる方が多いが、残念ながら集団としての裁判所にはがっかりさせられるところが多い。その一つの表れともいうべきか、著者が言及しているのが戦後の裁判官の戦争責任追及の話だ。いっとき話題に上ったものの、一人として公職追放されることもなく、結局うやむやとなった。それと同様に過去の問題に真摯に向き合うことができない裁判所の姿は、冤罪が明らかになった例がたくさんあるのに、その原因を裁判所自身が明らかにしようとせず、かえって司法の独立の陰に立てこもるところにも表れている。
唯一の例外は、ハンセン病患者に対する差別的取り扱いで、真摯に過去に向き合ったと評価することができるが、それを法的な効果に結びつけること、すなわち裁判のやり直しとか再審とかに結びつけることだけは頑として拒絶している。
しかし、著者はルサンチマンの塊のような絶望を振りまくことはしない。「自分が送ってきた人生の場を否定するようなことは言いたくない」というわけである。
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