Book:東アジアの王権と思想ー幕府とか藩とか、江戸中期まではなかった言葉
今年読んだ17冊目は、渡辺浩先生の東アジアの王権と思想 増補新装版
文科省が次期学習指導要領で「鎖国」という言葉を使わないようにするという話をFBでリンクしたら、FB友達から「幕府」とか「藩」という言葉だって当時の言葉じゃなかったというコメントがつき、「えー、ホントか」と無知を晒したら、これを読めと勧められたのが本書だ。
勧めたのが新潟大学の鈴木正朝教授で、個人情報周りにだけ詳しいわけでないことを誇示されてしまった。
そして読んでみたら、もう冒頭に「序 いくつかの日本史用語について」というところがあり、いの一番に「幕府」とは徳川家康以来、征夷大将軍の政府がそのように自称したり、諸法度・御触書の類に書かれていたり、はたまた日常用語として広く用いられたものではないとある。しかも「周知のように」だそうだ。
まれな例外は吾妻鏡辺りからあったようだが、幕府という言葉が一般化したのは後期水戸学が「尊皇攘夷」という言葉とともに流行らせたのであり、真の正統な権限が京都の朝廷にあって徳川政権はそこから任命された存在にすぎないということを示すための、皇国史観の象徴として、あるいは政治的な用語であったというわけである。
今、朝廷という言葉を使ってしまったが、この言葉自体も、天皇以下の禁裏を指す言葉として定義されたのは水戸学的なものであって、それ以前は徳川政権を指して「朝廷」と呼んだこともあった。天皇という言葉だって、13世紀から18世紀末まで使われない言葉だったというし、藩という言葉も、公式の用語として用いられたのは明治2年から4年まで、版籍奉還から廃藩置県までの間だという。藩という言葉を先駆的に用いたのは、木下順庵とその弟子新井白石で、一般化したのは荻生徂徠というわけだから、結局、江戸中期以降の言葉であった。
藩という言葉が採用されるに至ったのは、大名たる主君に仕える武士が藩に務める役人へと変質していった事実を表しているというのである。
歴史学の興味深さを改めて感じ入った次第。
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