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2017/01/02

Book:希望の裁判所

今年読んだ1冊目は、希望の裁判所~私たちはこう考える。昨年からの持ち越しだが、今朝ほど読み終えた。


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日本裁判官ネットワークの皆さんが、かなり自由に、文体や形式などの統一にはこだわらず、各自の裁判(所)への思いや見方を語るというスタイルである。

いわゆるブルーパージの時代を味わった裁判官たちが含まれている日本裁判官ネットワークの皆さんが裁判所に希望を見るという点が興味深い。

有名になった瀬木元判事の絶望の裁判所 (講談社現代新書)のパロディ的な表題であるが、時代認識としては、瀬木さんの本が出るかなり前から裁判所に対しては絶望の時代から希望の時代に移っていたように思う。そのことは本書(希望の裁判所)の著者たちが1番身に沁みておられるところだろうし、それが故に、その彼らが裁判所への希望を語れるのであろう。

こうした時代認識は、本書にまさしく如実に表わされている。
浅見宜義判事の「現職が語る裁判官の魅力〜改革の中で増すやりがい」は、民事訴訟法改革の前後での激変を中心に、調停、執行、倒産、家事の民事手続と刑事手続のそれぞれの改革による裁判の変化を要領よくまとめている。浅見判事は昭和63年任官ということなので、平成元年の民事保全法から実質的に始まる民事手続の変容をリアルタイムで体験された世代である。また、浅見判事自身も、改革を目指す発言をされていたので、推進役の1人だったということもできる。

民事司法改革の流れについては、井垣敏生元判事の「民事裁判はこう変わった〜改革の歴史と展望」が詳しく、改革前の五月雨式審理と改革後の集中審理手続、鑑定や証拠収集手段の拡充について説明されている。

刑事司法改革については、安原浩元判事の「裁判員裁判が日本の刑事裁判を変えた」にポイントがよく示されている。
いわゆる調書裁判から公判中心主義へ、人質司法の温床となる身柄拘束の実務の変化、この二点である。

そして、ブルーパージ問題に直接関わる裁判官人事制度の改革については、小林克美判事・仲戸川隆人元判事の「裁判官人事制度の改革〜裁判官の人事が見えてきた」が扱っている。前半が暗い閉鎖的な差別的人事の横行した時代で、後半が司法制度改革によりある程度透明化された人事制度の説明である。まさしく好対照ということができる。

以上の他にも、注目すべき論考が目白押しであるが、書籍の性格からくる限界もあり、もどかしい思いも禁じ得ない。
例えば工藤涼二元判事の「弁護士が裁判官になってみた〜弁護士任官体験記」は、まさしく体験記なので当然とは言えるが、弁護士から任官が進まない原因や、任官後の問題点についてもっと深めてほしかったと思う。
平野哲郎教授(元判事補)の「せっかく判決を取ったのに〜民事執行制度の改革と展望」では、マイナンバーを活用することで民事執行の財産開示を効果的なものにするというアイディアが語られているが、マイナンバーの現在の性格とそぐわないことは明らかで、個人番号を法人番号なみに公開されたものとすることが前提になりそうなのだが、そのようにすることの弊害はないのかとか、なかなか難しいところである。

論文集ではないのだから、そのような問題点があることはむしろ当然ということとなろうし、むしろそうした問題点は読者の側で受け取って考えるべきものであるのかもしれない。

本書は、そのような形で、例えば大学のゼミ教材とかに使うのが良さそうである。


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