decision:著作権法判例百選の差止め取消し
一部の法律関係者がこぞって注目していた事件に、新たな展開。
出版差し止め、高裁取り消し 「著作権判例集が著作権侵害」主張
著作権関係の主要な判決などをまとめた「著作権判例百選(第5版)」が出版差し止めの仮処分命令を受けた問題で、知的財産高裁は11日、差し止めを求めた大渕哲也・東京大教授は著作者とはいえず、差し止め請求権は認められないとして、命令を取り消す決定をした。
ケチな朝日新聞サイトではろくな情報がないが、他のサイトでは少しマシかと思って探すと、NHKサイトでは以下のように書かれていた。
知的財産高等裁判所の鶴岡稔彦裁判長は「改訂前の雑誌で教授は『編者』の1人だったが、実質的には助言する立場にとどまっていて、著作権はない」として、出版の差し止めを命じた決定を取り消し、申し立てを退けました。 有斐閣によりますと、改訂版は去年出版する予定で延期していましたが、11日の決定を受けて「出版についてはこれから検討したい」としています。
まあ、あまり変わらない。
ちなみに、原決定、保全異議に対する認可決定は、PDFで出ている。
そこには、普段うかがい知れない百選という法律世界では超有名な出版物群の、そして有斐閣という法律出版では自他共にトップの出版社の、編集作業過程と、東大の先生たちを中心とする編集委員サイドの生々しい動きが、その一端ということであろうが、うかがわれて、極めて興味深いと話題であった。
法律情報の扱われ方という意味で、法情報学的には貴重なエピソードである。
民訴的には、仮処分の紛争解決機能として、本案化現象(本来なら本訴訟で決着を着けるところ、仮に訴訟結果を実現して、実現不可能になってしまうのを防ぐ目的にすぎないのが、仮処分で決着が付けばもう本訴は起こらないくらいに紛争解決になってしまう現象)の現れとして興味深い。
ただし、このように著作権侵害を理由とする法的措置は、差止というレベルでは確かに本案は考えにくくて仮処分で事実上の決着がつくといえるが、損害賠償訴訟のレベルでは紛争可能性は残されているし、差止めだって事後的な差止めが認められれば、出版社に大きなダメージが生じる可能性があるので、必ずしも本案化現象の典型例ということはできない。
ということで、有斐閣としても、これで一安心ではあっても、全く安心というわけではないであろう。
こうこじれると、中々困難かもしれないが、やはりこの先は和解の可能性を探っていくのが紛争解決としては必要なプロセスであろうと思う。
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